『俺の涙は枯れ果てたものと思っていたが、瞬は凍りついていた俺の身体に熱い命をふきこんでくれた……』 ――今頃、氷河は、天蠍宮で滂沱の涙を流しながら、あのセリフを言っているのかしら。 天秤宮以上に、この目で直に見てみたかった天蠍宮。 でも、私は、その頃にはもう聖域に背を向けて、遺跡の陰に隠しておいたタイムマシンのところに戻ってきていた。 氷河と瞬ちゃんの愛の天秤宮。 やおい界最大にして、人類の永遠の謎。 その謎が、私の作ったものだったなんて──。 私が、このが、愛しの瞬ちゃんに拳をふるっていたなんて──。 私は、とてもとても悲しかった。 きっと瞬ちゃんは、私のことをとんでもない暴力女だと思ったに違いないわ。 でも──でも、私、後悔はないの。 後悔はしてないわ。 私が、あの場で、血の涙をこらえて、瞬ちゃんを倒していなかったら、氷河のあの感動のセリフも滝涙もなかったに違いないんですもの。 私は、氷河以上の滝涙を流しながら、タイムマシンのスイッチを入れた。 1000年後の世界に帰るために。 長い時間をかけて、炭素がダイヤになるように、人類の永遠の謎が美しく輝いている時代へと、傷心の私は帰っていくの。 ノーベルやおい文学賞が何よ! 卒論がどうしたっていうのよ! たとえ瞬ちゃんに怪力女と思われたって、それで、氷河と瞬ちゃんがくっついてくれるのなら、私は平気。 それがやおい女の心意気ってもんでしょう! 小さな胸の痛みと、『氷瞬、愛の天秤宮を演出した女・』という、人に言えない栄誉ある称号を抱き、そうして、私は現代に帰ってきたの……。 Fin.
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