事件が起こったのは、私が城戸邸にやってきて、1週間も経ったある夜のこと。 私、その夜は、遅くまで、自分の部屋の机に向かって書きものをしてた。 深夜1時をまわってた――と思う。 なんだか急に喉が渇いて、私、コーヒーをいれようとしたんだけど、ポットのお湯が切れてたんで、ポットを持って部屋を出たの。 ちなみに、城戸邸には、私の他に使用人が10人くらいいて、調理師さん3人以外は全員住み込み。 お屋敷の西側の3階に使用人用の部屋が並んでる。 ご主人様たちは、東側の2階にそれぞれの個室をお持ちで、まあ、言ってみれば、このお屋敷はホテルかマンションみたいなもの。 西と東と中央に、屋上から1階まで行き来できる階段があって、使用人たちは主に西側の階段を、ご主人様たちは東側の階段を使ってる。 で、私は、いつものように、その西側の階段を使って1階にある厨房までおりていこうとしたんだけど。 2階のフロアーまでおりた時、深夜の廊下で人の声が聞こえたの。 その声は、私のいる場所とは反対側の、2階の廊下の突き当たり――私のいるところから50メートルくらい離れてるかな――から聞こえてきた。 だから、私と声の主との間にはそれなりの距離があったんだけど、それでもはっきりとその会話を聞き取れたのは、やっぱり、時刻が深夜で、長いまっすぐな廊下にある空気が、その声以外に伝える音を持っていなかったせいだと思う。 それは、氷河様と瞬様の声だった。 私は、反射的に、階段の手擦りに身を潜ませた。 それから、こっそりと、お二人のいる方を盗み見たの。 だって――普段は滅多に声を荒げない瞬様が――瞬様のお声が――、なんだか怒ってらっしゃるみたいだったんだもの。 |