■  一番手 ディアッカ・エルスマンの場合


某ナスカ級高速戦闘艦内通路で、ディアッカは、クルーゼ隊の隊長を呼び止めた。
銀色の出前箱を手に持って。

「隊長〜、鍋焼きうどん食いませんか〜」
「鍋焼きうどん? なぜ、今、ここで鍋焼きうどんなのだね?」
唐突にそんなことを言われて、それを怪訝に思うあたり、変態長の噂も高いクルーゼにも常識的なところはあるようである。

むしろ、いたって常識的なクルーゼの疑念を、
「そう固いこと言わずに。せっかく作ってきたんですから」
の言葉だけでカットオフしようとするディアッカの方が、この場合は非常識だった。
更に、彼が手にしているものも非常識を極めている。

ディアッカが、どこから鍋焼きうどんの材料を調達し、どこでどのようにそれを作ってきたのか。そもそもこのSEED世界にうどんという食べ物は存在するのか──そんな細かいことを気にするのは良い読者ではない。

とにかく、ディアッカは鍋焼きうどんを作ってきた。
そして、それをクルーゼに食べさせるべく、通路のすぐ脇にあったミーティングルームに、彼を連れ込んだ。
それから、ディアッカは、ミーティングルームの中央のテーブル上に、まだぐつぐつと沸騰している鍋焼きうどんの土鍋を載せ、
「どーぞ、召し上がってください」
と言った。
──それが事実で、かつ、それが全てなのである。

「間違って、二人分作っちまったんです。食べ物を粗末にすると、もったいないおばけが出るって言うし、捨てるわけにはいかないでしょ」
「もったいないおばけに艦内をうろつかれるのは困るな」
ディアッカとクルーゼがどこまで本気でそんなことを言ったのか、それは当人たちにしかわからないことである。

いずれにしても、クルーゼは、ディアッカに手渡された割り箸をぱちんと割って、テーブルの上に置かれた鍋焼きうどんを食し始めた。
例の仮面をつけたままで、あちあち、はふはふ、つるつると。






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