クルーゼがニコルを呼び出したのは、彼が、彼の戦友に『臆病者』と蔑まれているのを洩れ聞いたからだった。
そして、彼が、その言葉を甘んじて受けていたから──受けているように見えたから、である。

表向きには、それは無論、彼を励ますため。
そして、部下への配慮を忘れない思い遣りのある上官を演じるためでもあった。

クルーゼは、実際、彼には──自分の手駒たちには──過ぎるほどの自信を持っていてもらいたいと思っていた。

人間は、思いあがっている者の方が扱いやすい。
おだて持ち上げておけば、時には、こちらが期待していた以上の働きを見せてくれることもある。
逆に、自らを卑下している人間は扱いにくい。
そういう者たちは、自己にも他者にも、そして、自らが何らかの行動を起こすこと自体にも懐疑的になる。

「アルテミスを落としたのは、君の功績だ。君は、もっと自信を持つべきなのではないかな」
「え?」
「傲慢であること以上に、過ぎる卑屈というものは傲慢なものだよ」
「はい?」
クルーゼの言わんとしていることが咄嗟に理解できずにいるのか、ニコルは、彼の隊長の前で僅かに首をかしげた。

「私は、実力に見合った自信を持っている人間を、最も好ましいと思う。思いあがりも卑屈も、戦う者には不適当な特質だ。自分自身の価値と実力を客観的に把握できていてこそ、失敗も後悔もない戦いができる。君は有能だ。無謀と果敢が違うように、臆病と慎重は違う。イザークの言葉に──」

「ああ」
彼の隊長が、何のために自分をプライベートルームに呼びつけたのかに、やっと得心がいったらしくに、ニコルは僅かに首肯した。






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