「……そうか」

通信兵の報告を受けて、クルーゼは奇妙な虚無感を覚えた。
それは、ただの手駒の死などに感じるはずのない虚無感だった。

運命というものは、実に皮肉にできている。

殺伐とした戦いの場に、一輪だけ、一見ひ弱に、だが、信念を持って力強く咲いていた小さな花。
それは、あまりに早く、あまりにあっけなく散ってしまった。
嵐が近付いていることを知っていても、決して自分の生まれた場所から動くことをしない野の花のように。

彼は、人の心ではなく、花の心で生きていたのかもしれない。
彼が戦いを望んだのではなく、戦いの中に生きる人間が、彼を必要としていたから、彼は戦場にやって来たのかもしれない。
戦わずにいられない人間の心を安らげるため、その心を癒し、抱きしめるために。

だが、そんな花をも散らしてしまうのが、戦いというものなのだ。

この世界から、その花は失われた。
世界は再び、強者と弱者、利用する者と利用される者、支配する者と支配される者──対立する二者だけが生きる世界に戻る。
愚かな者は利用されるだけ利用されて切り捨てられる世界――が、再びクルーゼの目の前には広がっていた。

「気にかけるものがなくなって、よかったじゃないか。これで私も心置きなく──」
自身の目的のために、愚かな人間たちを操り、利用して生きていける──そう呟きかけてから、そう考えること自体が、自分があの少年を気にかけていた事実を認めることになるのだと思い至り、クルーゼは苦く自嘲した。


喪失感は、小さなものだった。
だが、それは、他の何かでは決して埋めることのできない喪失感でもあった。
人は本当は優しいのではないかと、つい信じてしまいたくなる──淡い花のようなあの笑顔。

「ふん。結局は、私もイザークやアスランと同様に、あの子に甘えていたわけか」
クルーゼは、誰もいない部屋で、忌々しげに低く呟いた。


そして、だが、この世界から、あの小さな花は失われてしまったのだ。
──永遠に。






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