中庭を見おろせる東の二階の回廊を、彼は自室に向かって歩いていた。 足早なのは、やり場のない憤りや苛立ちのせいだったろう。 母が亡くなった途端、まるでその時を待っていたかのように、母を悲しませた女の子供を王宮に招き入れた父――。 バーニは知っていた。 父が母を愛していたことも、母が父を愛していたことも、ナディンの母が純粋な思いで父を愛していたことも、父がナディンの母を愛していなかったことも。 王后の気持ちを慮って、都の片隅に陰者のように隠れ住んでいたというナディンの母。妻の心を乱すことのないように、年にほんの数度だけひっそりと幼い息子の許を訪れていた父。その父を窓布の陰から、切なげに見送っていた母。ナディンとて、父のいない生活を寂しく思う時がなかったはずがない。 誰も悪くはないのだということがわかっているから、バーニは自分の中に渦巻いている嵐のような感情をどこに向ければいいのかがわからなかった。 せめて、初めて会う弟が孤独の影をまとった暗い瞳の少年だったなら、互いに傷を癒し合おうとすることもできたかもしれない。 だが、あれほど素直で明るい瞳をした少年が出てくるとは、バーニは思ってもいなかった。自分の存在が周囲の人間をどれほど傷つけたのかも知らない罪の翳りもない笑顔――が彼の神経を逆撫でした。 「あれは神の意に背いて存在するものだ…」 虚空に向かってバーニが呟いたその言葉に、ナキアはぞっと背筋を凍りつかせた。 それは、憎しみをぶつける相手、感情の捌け口を見つけて、自身の心の保全を図ろうとする人間のそれだった。 瞳には安堵の色さえ浮かんでいる。 ナディンを妬んでいる間、自分もあんな目をしていたのだろうか――。鋭い刃物で心臓を切り開かれるように耐え難く鋭い痛みを、ナキアは胸に感じた。 そうだったのかもしれない、と思う。幸運にも自分は、その醜さを具体的な行動にする機会を持たなかっただけなのだ、と。 ――そうして、次にナキアの目の前に繰り広げられた場面は、思わず目をつぶってしまいたくなるような光景だった。 実際ナキアは目を閉じたつもりだったのだが、その光景はナキアの前から消えていってはくれなかった。 |