■ 心理テストバトン ■

(『ぷちライム』のゆりさんからいただきました)


■次の接続詞に続けて文章を完成させてください。すべて独立した文章にしてください。

      1.「しかし」
      2.「やがて」
      3.「ただ」
      4.「だって」
      5.「そして」
      6.「水たまりは」
      7.「あの子って」
      8.「今日の私(俺・僕)は」
      9.「少しは」
      10.「涙は」






氷河の場合



幾日も続いていた雨が止んだのは昨日の午後のことだった。
梅雨が中休みに入ったのか、今朝は幾日振りかで 太陽が朝から地上に顔を向けている。

しかし、この梅雨って奴は本当に鬱陶しいな。日本には どうしてこんなものがあるんだ。やがて来る夏の前奏曲だと思うから耐えられるんだ」
のろのろとベッドから起き上がった氷河は、彼の他に誰もいない自室で、虚空に向かって呟いた。
そう、この気鬱は梅雨という季節のせいだ――。
まるで自分自身に言い聞かせるように、氷河はそう思った――思おうとした。
そうでないことは、他の誰よりも彼自身が承知していたというのに。

彼の気が滅入っているのは、もちろん 梅雨のせいなどではなかった。
昨日 彼は些細なことで瞬と喧嘩をして、本当に久し振りに一人寝というものをした。
喧嘩の原因は些細なことだった。
今思うと、あれは本当に喧嘩だったのかと疑いたくなるほど ささやかな行き違い。
幾つもの水たまりができた城戸邸の庭に嬉々として飛び出ていこうとした瞬を、氷河が止めた。
それだけのことだった。

ただ、瞬に側にいてほしかっただけだったんだがな、俺は」
だというのに、それだけのことで瞬はすっかり拗ねてしまったのだ。
拗ねたというより、瞬は悲しんでいるように見えた。
ひどく落胆した様子で肩を落とし、そうして瞬は氷河の前から姿を消してしまった――。

だって当然だろう。庭に水たまりがたくさんできただけのことに あんなに浮かれて――小学生のガキじゃあるまいし」
今にして思えば、それはただの焼きもちだった。
雨上がりの庭などより自分を見ていてほしいと、氷河はそう望んだだけだったのだ。
しかし、瞬はそれでひどく気落ちしてしまったらしい。
そして、俺は瞬に去られてから、やっと気付いたというわけだ」

氷河は、その事実を失念していたのである。
水たまりは 瞬の好きな遊び道具だったな……。瞬は、ガキの頃から、どういうわけか水たまりを覗き込むのが好きで――。『あの子って変わってるよな』と、ガキの頃からみんなに言われていた。すっかり忘れていた……」

幼い頃の瞬は――今もなのだろうか?――、雨やら水たまりやら、普通の子供が歓迎しない類のものが好きだった。
否、瞬は何でも好きだったのだ。
晴れた日も、雨の日も、風の日も、雪の日も。
そして、花が咲いたといっては喜び、雪が積もったといっては喜び、雨の日には水たまりができたといって喜ぶ。
水たまりは、特に瞬の気に入りの自然の恵みだった。
幼い頃には氷河は、水たまりが消えるのが悲しいと言って泣く瞬を、懸命に慰めたことさえあった。

「昔の俺は実に健気だったな。瞬が泣いているのが嫌だった。昨日の俺は、自分が手に入れたものを独占していたいガキで――」
では、今日の自分は?
今日の自分は、瞬の前でどんな自分であるべきなのだろう?
しばし考え込んでから、氷河はそれを決めた。

今日の俺は、瞬のために健気だったガキの頃の俺に戻るとするか。少しは大人にならないとな」
氷河の決めた『今日の自分』のあり方には大きな矛盾が含まれていたのだが、おそらく『大人になる』ということは、子供のように素直な心を“意識して”持てるようになることなのだろうと、氷河は得心した。
いつも自分のことだけ見ていてほしい、自分のことだけ考えていてほしいと、我儘な子供のように振舞い続けていると、本当に瞬に愛想を尽かされてしまいかねない。
昨夜 一人で見た夢の中で、瞬は、今にも泣きそうな目をして、何事かを訴えるように氷河を無言で見詰めていた。

涙は嫌いじゃないんだがな。泣いている時の瞬は えらく可愛いし」
だが、瞬の涙を好ましく思っていられることには条件がある。
瞬が、自分の手が届くところで泣いていること――瞬の恋人が、その涙をぬぐってやれるほど近い場所に瞬がいること。
氷河は、彼のいないところで瞬が泣いているのは嫌だった。
その“嫌なこと”を避けるためには、彼自身がいつも瞬の側にいなければならない。
氷河は身仕舞いを整えると、昨夜一人の夜を過ごした部屋を出た。






瞬の場合



幾日振りかで明るい朝の陽光を見ることができ、暖かい光に包まれてもいるというのに、瞬の心は一向に晴れなかった。
しのつく雨の朝に目覚めた時にも、これほど憂鬱な気持ちになったことはないというのに。

朝目覚めた時、隣りに誰もいないのは寂しい。
そう感じてしまうことをやめられないでいる自分自身を鼓舞するように、
しかし、氷河がいないと速やかに起床できていいよね!」
瞬は、声に出して そう言ってみたのである。
その声が、一人きりの部屋の中に空しく響き、木霊も残さずに消えてしまうと、明るい陽光に包まれた自分の部屋が、瞬の目にはますます空虚なものに見えてきた。

いつもなら、隣りにいる氷河が『もう少しだけ』と駄々をこねてベッドに執着し、それだけなら何の問題もないのだが、彼はその執着に瞬をも付き合わせようとする。
瞬にベッドを出ることを許さず、氷河はあの手この手で瞬を自分の側にとどめ置こうとするのだ。
今日は その氷河が隣りにいないのだから、瞬はすぐにでもベッドを出ることができるはずだった。
しかし、瞬は、どうしてもそうする気になれず、再び身体をシーツの上に戻すと、背中を丸めるようにして目を閉じた。

「そうしてると、やがて僕が氷河の駄々に負けちゃうってことを知ってるから、氷河は毎朝あんなふうなんだ。どうせ氷河に負けちゃうことはわかってるんだから、僕も無駄な抵抗をしなきゃいいんだよね。ただ大人しく、氷河の横で、氷河が起きる気になってくれるのを待っていればいいのに……」
それはわかっているのだが、瞬は毎朝、氷河が『ここにいろ』という場所から逃げ出ようとする。
そして、氷河は、そんな瞬を毎朝ベッドの中に引き戻そうとする。

自分がなぜそんなことをしてしまうのか、瞬は本当は とうの昔に気付いていた。
瞬は起床したいのではなく、氷河に引き止めてもらいたいから、そうするのだ。
だって、僕は確かめたいんだもの。氷河が今日も僕を好きでいてくれるってこと」
氷河に引き止めてもらうことができれば、少なくとも彼が 今日も彼の恋人に側にいてほしいと望んでいることは確認できる――確信できる。
そして、安心したいのかな、僕は」
まるで、母親の関心を自分にだけ引きつけようとする小さな子供のようだと、自身の行動を顧みて、瞬は思った。

昨日の喧嘩も――瞬が勝手に一人で拗ねただけで、それは喧嘩と呼べるほどのものでもなかったのだが――非は自分の方にあるということを、瞬は自覚していた。
自分の期待通りにならない氷河に、瞬は一人で腹を立て、一人で拗ねてしまったのだ。
そのきっかけは、城戸邸の庭にできた幾つもの水たまり――だった。

水たまりは――子供の頃には、あの小さな池には小さな小さなサカナがいるんだって、僕 信じてたんだよね……」
幼い頃には、水たまりの水が干上がってしまうと、そこにいるはずのサカナが死んでしまうのではないかと、瞬は心配でならなかった。
雨があがるたびに、庭にできたあちこちの水たまりの中を覗き込んで、そこにいるはずのサカナを探し、サカナたちが元気に泳いでいるかどうかを確かめるのが、瞬の恒例の“仕事”になっていた。
「『あの子って変な子』って目をして、沙織さんに見られたこともあったな……」

小さな池の中に小さな小さなサカナを見付けることは一度もなかったが、それでも瞬は信じていたのである。
あの水たまりの一つ一つの中には、小さな銀色のサカナが住んでいるのだと。
どれほど小さな水たまりの中にも、銀色の小さなサカナが必ずいるのだと。

だが、水たまりは、時が経つと必ず消えてしまう。
出会うこともできないうちに消えてしまう小さな銀色のサカナたち。
幼い頃の自分にとって、決して出会うことのできないそれ・・はいったい何だったのか――。
あの頃の自分が探していたものは、どれほど小さく無力で儚い存在にも命があり、希望があり、誰かに必要とされているのだという確信だったのかもしれない――と、今の瞬は思っていた。

そんな ある日、どうしても巡り会うことのできない希望サカナが悲しくて、どれほど願っても儚く消えてしまう自分水たまりが切なくて、瞬は、
『おさかなが死んじゃった』
と言って泣き出してしまった。
そんな瞬に、困ったような顔をした氷河が空を指さして、
『あの雲、サカナの形をしていると思わないか』
と言ってくれたのだ。
氷河にそう言われ、瞬が空を見上げると、そこに浮かんでる雲たちは皆、確かに小さなサカナの形をしていた――瞬の目には そう見えた。

どんなに頑張っても自分には見付けられなかったものの ありかを、氷河は教えてくれる。
氷河は、その場所を知っている。
その時、瞬は、自分が探し求めていた希望がどこにあるのかがわかったような気がしたのである。
希望のありかを知っている人が、希望そのものだと、瞬は思った――。

今日の僕は変だね。どうして急に、そんな子供の頃のこと……」
あの時、瞬は、自分に希望のありかを教えてくれた氷河が大好きになったのだ。
「寂しかったからかな、夕べ……」
それはとても幸せな記憶のはずなのに、瞬の瞳にはいつのまにか涙がにじんでいた。
その涙を、ごしごしと手の甲で拭う。

一人で拗ねていても、何も始まらない。
たった一晩でも、氷河といられないことが寂しく不安でならなかったのは、否定しようのない事実だった。
少しは氷河も寂しがってくれてたのかな」
そうであってくれればいいと願ってから、氷河がそんな思いをしているのは嫌だと思う。
瞬は急いでベッドを飛び出て、身仕舞いを整えた。
ベッドの脇にある簡易ドレッサーの鏡で、もう涙が残っていないことを確かめる。

涙は見せないようにしなくちゃね」
早く氷河に『ごめんなさい』を言わなければと気を急かせながら、瞬は部屋のドアを開けた。






そして、二人



瞬が部屋のドアを開けた時、ほとんど同じタイミングで、隣りの氷河の部屋のドアが開いた。
あまりのタイミングの良さに、二人は揃って驚くことになってしまったのである。
互いの瞳の中にある心を認めると、自然に二人の唇には笑みが浮かんできた。
やはり、二人は二人でいる方がいい。
氷河の青い瞳の中にいる自分を見て、瞬は嬉しくなった。

「おはよう、氷河」
「いい朝だな」

久し振りの晴天。
昨日まで水たまりの中で泳ぎまわっていた小さな銀色のサカナたちも、まもなく青い空へと帰っていくだろう。
だから瞬は、もう 一人で水たまりの中を覗き込む必要はないのだ。






Fin.







■ 解説 ■


1.『しかし』 これまでのことを振り返るときに必ず使います。つまり、この後に続く言葉は『今までの人生』を象徴します。
2.『やがて』 近い未来を予想、あるいは予測する時に使います。あなたが今一番気になる未来――『恋人との行方』を表します。
3.『ただ』 これは後に『〜だけ』などが続き、非常に少数のものを語る時に使う接続詞なので、『一人の時のあなた』の状態がここで浮き彫りにされるでしょう。
4.『だって』 言い訳する時の常套句です。言い訳をする時、あなたは 知らず知らずのうちに自分の欠点を語っているのです。人のせいにしてしまおうと言い訳しているはずなのに、実は『あなたの嫌なところ』をさらけだしてしまっているのです。
5.『そして』 現状を受けて、その延長線上――『あなたの老後』がここに映し出されてます。
6.『水たまりは』 水たまりは、真実を映す鏡の象徴でもあります。水たまりをどう捉えるかによってわかることは『あなたの本当の姿』です。
7.『あの子って』 これは他人を指す言葉。他人に対する言葉は裏返してみれば他人の目に映る自分を意識する言葉でもあるのです。自分を繕ったり、よく思われたいと願う部分、これは『好きな人の前にいるあなたの態度』です。
8.『今日の私(俺・僕)は』 『今日』とあえて限定すると、とても改まった気持ちになります。けれど、そこには無理に取り繕った偽りの心が含まれていることも事実でしょう。ここでは『嘘をついている時のあなた』が表れてしまいます。
9.『少しは』 できなくてもいいから、僅かでもいいから努力しなくてはと、自分を叱咤激励する気持ちを込めた この言葉から導かれるものは あなたのやる気、つまり『今年の目標』です。
10.『涙は』 涙は喜び、悲しみ、感動と、さまざまに揺れ動くあなたの心の代弁者です。大人への第一歩を踏み出した『初体験の時』の不安や喜びがここでわかります。






■ テストを終えて ■


はたしてこれを『独立した文章』と言っていいのかどうか、少々疑問に思わないでもないのですが、氷瞬心理テストバトンSS、書かせていただきました(SS自体は、ちゃんと解説を読む前に書きました)。

SS仕立てにして、お題の言葉を無理矢理セリフの中に入れたせいで、かーなーりー不自然なことになってしまったような……。
本来の氷河(というか、ウチの氷河)は、『だって』なんて言葉はまず使いませんし、瞬も『しかし』『やがて』よりは、『でも』『そのうち』の方を使いそうです。

このテストでいちばん納得したのは、『あの子って(=好きな人の前にいる時の態度)』ですね。氷河サイド・瞬サイド共に、『変な子』しか思いつかなかった……。
お遊びのテストではあるのでしょうが、いかにもウチの氷河、いかにもウチの瞬なところが垣間見えて(自然に出てきて)、大変興味深かったです。

ゆりさん、楽しいバトン、どうもありがとうございました!









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