SPACE HOLIDAY 3
 

        第1部          10 11 12

        第2部 13 14 15 16 17 18 NEW
 
 
 
 

第1話 Mirror Boys

西暦2004年Space Holiday 2から1年。

 インターネットはIPv6の出現によってユビキタスネットッワークにまで拡大していた。
 ネットワークのインフラは光ファイバーなどでは間に合わず、遂にニュートリノ通信による地球の裏側との通信が
 始まった。

 スーパーカミオカンデを御存じだろうか。宇宙からのニュートリノを捕らえるために山の地中深くに掘られた穴の壁に、
 光電子増倍管をはり巡らして、穴の中に水を満たしたものである。
 一方、筑波にはニュートリ発生装置があって、2000年には筑波で発生させたニュートリノ粒子をスーパーカミオカンデ
 で捕捉する実験が行われた(注:黄色の字の部分は事実です)。

 SPACE HOLIDAY 3の第1話のタイトルのMirror Boysは、スーパーカミオカンデのようなニュートリノ送受信装置を、
 衛星軌道上に打ち上げて、地球を貫通させてニュートリノ通信を行う設備の一部である。
 Mirror Boysの内部には光電子増倍管が埋め込まれ、中には水の代わりに重水(2重水素による水)が入っている。
 重水を使うことにより、水よりもニュートリノの捕獲率が向上するので、システムを小型化できるわけである。

 重水は放射性物質なので、地表にMirror Boysを並べるのは危険が大き過ぎる。そこで、バンアレン帯の外側に
 置いて、地表に放射能が届かないような仕組みになっている。

 光電子増倍管はニュートリノ以外の、宇宙空間の様々な電磁波を受信してしまうので、特殊コーティングした鏡で全体を
 覆われている。また、Mirror Boysは24個あるので、この名がついた。

 Mirror Boysの機能は、地上から送られた電波による通信の信号をニュートリノ信号に変換して発信、地球の裏側の別の
 Mirror Boyに送信するものである。ニュートリノを受信したMirror Boyは、ニュートリノを電波による信号に変換して、
 送信先の地表に送信する。
 いわば、新型の通信衛星網である。

 また、月面には何テラバイトものファイルサーバが数多く建造された。
 月面では真空なので、ファイルサーバにはプラスチックの匡体は不要である。その代わり地球のように大気がないため、
 宇宙空間のチリが直接衝突するのを防ぐ堅牢な鋼鉄の匡体で覆われている。匡体は輻射による放熱フィンの役割も
 兼ねている。
 漆黒のフィンに立方体の匡体を持つサーバ群はいつしかCarbon Wingsと呼ばれるようになった。
 月の豊富な資源を利用して、また太陽光発電による豊富な電力を使用して、ハードディスクではなくてSDRAMメモリによる
 超高速・大容量ファイルサーバCarbon Wingsが構築された。同時に、サーバを月面で製造、メンテナンスする自動無人工場も
 作られた。メンテナンスだけは一部は地上からリモートで行っている。
 プラスチックを使わず石英がラスと金属資源のみで作られているので、完全なリサイクルが可能になった。

 Carbon Wingsのネックは、アクセスのオーバヘッドが2.6秒(地球から月まで電磁波が届く時間×2)かかることである。
 その代わり一度通信が確立したらあとは地上のどのサーバも勝てないほどのアクセススピードを誇った。
 主にVOD(Video On Demand)に用いられている。
 今まで地上で作られたほとんど映像記録が月面に置かれ、Carbon Wingsで常時アクセス可能になった。

 さて、Carbon Wingsの無人工場やリモートの設備に携わったのは、言うまでも無い我らがHolidayの勤めるサプライズ社
 である。
 Mirror Boysに起こる謎のアクシデント、インターネットの危機? エンターサプライズ号は?
 果たして明日の夕食のおかずは?(関係ねぇ〜!!)
 次回、波乱と怒濤の(ホンマかいな)第2話をお楽しみに。


第2話 ハイパーブレット

 地上では、新交通機関として、ハイパーブレットと呼ばれる斬新で画期的な航空機が稼動していた。
 Space Holiday 2に出て来たリニアモータによるカタパルトを憶えておいでであろうか。ハイパーブレットはシャトルの代わりに、
 可変翼を持つ超高速のグライダーを打ち出すものである。なんと地球の裏側まで1時間で到着した。

 カタパルト上で加速する際は翼を狭めて弾丸のように打ち出されることから、この名がついた。また、弾丸のごとく、エンジンを
 搭載していない。成層圏まで打ち上げられたあとは、翼を広げてパイロットの操作で好きな場所にいつでも着陸できた。
 白い大きな翼を広げた時の美しい姿から、エンジェルウィングとも呼ばれた。

 エンジンを持っていないことはデメリットもあるが、様々なメリットを生み出した。まず、環境に優しいこと、次に騒音がないこと、
 軽量化できること、墜落しても火災が発生しないので安全なこと、パイロットはエンジンの知識が不要なので操縦に専念できること、
 機体が安価なこと等である。
 また、冒頭にも述べたように、ハイパーブレットは他の航空機よりも超高速で、マッハ6.7を誇った。
 三菱重工のスペースプレーン(実在の計画)と同じ目的で作られながら、性能、コスト面ではハイパーブレットの比ではなかった。

 海外旅行は格安でしかもヨーロッパ日帰りなんてもの登場して、海外旅行が盛んになった。もはや海外へ航空機で行くことは
 ”旅行”ではなくなった。南極への日帰りオーロラ見学ツアーや世界1周グルメの旅は人気だった。
 また、海外への運送費用のこすとダウンは物流に革命を起こした。個人による海外通販が盛んになっただけではない。
 製品製造のための部品は世界各国が調達となった。本当の意味でのグローバル化が始まった。

 物流に伴い、航空貨物チェックシステムが強化された。全品検査するための核磁気共鳴による検査装置が開発され、
 検査装置産業を起こした。飛行場で輸入禁止の動物から麻薬まで何でもチェックできた。

 航空機メーカは最初のうちは安価な宇宙旅行だと言って暴利をむさぼろうと、CGをふんだんに使った美しいSF調のCMを
 作ったりして、顧客の開拓に努めた。この宣伝はハイパーブレットを世に知らしめるに貢献したが、結果的にメーカ側は過酷な
 価格競争を強いられることとなった。

 ハイパーブレットは打ち上げ後、弾道軌道で成層圏まで到達する間は無重力状態になった。これも人気の1つであった。
 成層圏からの地球の眺めは爽快であった。20世紀のスペースシャトルの光景がそこにはあった(正確に言えばスペース
 シャトルよりは、空気のあるはるかに低軌道を飛行している)。
 これは、当初想定していなかったハイパーブレットの大きな効果であるが、多くの人々が地球の美しい姿をあらためて見直し、
 地球環境を守る活動に拍車をかけた。

 ハイパーブレットシステムは、残念ながら自動車や船舶、列車には適用できなかったが、子供のおもちゃに使われた。
 リニアモータで打ち上げて滑空するラジコン、あるいはまがいもので単にペットボトルロケットの形だけを似せたものまで
 いろいろあった。

 さて、台詞も人間ドラマも(人間でなくてネコだった)なしに、進んだ第1話と第2話。
 次回のSpace Holidayはいよいよエピソードが始まるのか? あるいは、またまた気まぐれの思いつきか?
 (思いつきだったのか…)
 第3話をお楽しみに。



第3話 フィッツジェラルド

 ジェリーこと新人フィッツジェラルドは、上司である課長フェリックスとお店で一杯やっていた。
昨夜見たドラマの話をしていた。

ジェリー「で、続きはどうなったんです?」

フェリックス「女は手袋の人さし指のところをくわえて手袋をはずしたんだ。毒薬の塗ってあったのは中指だったから、
   助かったってわけさ。」

ジェリー「犯人はつかまったんですか?」

フェリックス「ああ。ヘボ探偵と思われていた探偵が、犯行に失敗した犯人の顔色が変わるのを見のがさなかったのさ。
   犯人に気付かれぬよう彼の荷物を調べて毒薬を探し出したんだ。」

ジェリー「ふうん。」

ジェリー「ところで課長、なんで私が出張なんですか?」

フェリックス「ぶはっ」

 吹き出しそうになるフェリックス。

フェリックス「飲んでる時に仕事の話をするのは好きじゃないんだが、まあ仕方がない。」

ジェリー「よりによってエクスプローラ社のオーストラリア支社だなんて。」

フェリックス「ハイパーブレットがあるからいいじゃないか。日帰りだよ。私らの頃は飛行機を乗り継いで
   何時間もかかったものだ。」

ジェリー「それはそうですけど。不安ですよ。初の出張だし、たった独りで行けだなんて。」

フェリックス「なんとかなるさ。それに、先に現地入りしてるホリデイ支社長が直々に出迎えてくれるから。」

ジェリー「ホリデイさんの出迎えなんて、かえって余計に緊張しますよ。」

そして、出張当日。ジェリーはカタパルト上のハイパーブレットの中にいた。
シートベルトを締めるよう、機内アナウンスが流れる。ジェット機なら物凄いエンジン音がしている頃だが、地下から
微かにリニアモータ駆動用の巨大コンデンサに充電するキーンという高音が聞こえてくるのみである。

 機内アナウンス「当機は間もなく発射します。カタパルト上での十数秒間は加速のために座席後方に押し付けられます。
   どうぞ体の力を抜いてリラックスしてください。」

機体が緩やかに滑り出す。螺旋状の長い長いカタパルト上を、機体は次第に加速していく。まるでジェットコースターのようだ。
数秒で約3Gの加速度に達する。ソフトなシートに体が沈み込む。やがて機体は最後の直線部分を通って、大空に45度の角度で
マッハ6.7の猛スピードで投げ出された。
カタパルトから放り出されると、その瞬間に弾道飛行が始まるので、機内は無重力状態となる。
ジェリーは窓の外を見た。地表が見る見る小さくなっていく。

地表から見ると、初速の小さいスペースシャトルと異なり、ハイパーブレットはまさに弾丸のように地表から打ち出されて行った。
エンジンがないので飛行機雲ができないかと思いきや、翼端渦が2本、放物線を描いて機体のあると思われる位置まで
美しく伸びていた。

機体は夜明け前のような光景の成層圏まで達していた。ハイパーブレットはゆっくりと大きな美しい翼を広げる。
空気抵抗で次第に速度が下がる。パイロットは機体を下降させる。機体は再び速度を増し、その後高度を一定に保つ。
エンジン音の代わりに風切り音のみが聞こえる。静かだ。ジェリーはひとときのしじまに物想いにふけった。

と、機内の様子が慌ただしくなる。添乗員が機長室をせわしなく出入りしている。

 機内アナウンス「皆様、地上でトラブルがあった模様です。ニュートリノルータの動作不良で、本機の航行システムにも
   影響が出ています。本機は管制塔との専用通信回線に切り替えましたので、到着時間への影響は数分の見込みです。」

変なアナウンスだ。

 nakata「すまん、文才が足りなくて。」

ままよ。それよりジェリーはどうなった?

 ジェリー「ニュートリノルータって、Mirror Boysのことだな。一体何があったんだろう。」

ハイパーブレットはインターネットの情報を元に航行していた。Mirror Boysは今やインターネット上を流れる世界中の情報の
要となっていたので、Mirror Boysシステムの故障はインターネットへの大きな打撃でもあった。

第3話にしてようやくSpace Holidayシリーズらしくなってきたストーリ。
ジェリーの出張先の仕事とは何なのか?
Mirror Boysのトラブルとは?
(それにしても今回のシリーズはボケが少ないなあ。1話まるごとボケたおすってのがないじゃん。)
次回に続く。



第4話 ひと休み

今回は特に難解な用語の出て来るSpace Holidayですが、用語をweb検索で調べてみるのも楽しいと思います。
よく使うサーチエンジンを紹介しておきます。Googleです。Googleの正体は数百台のコンピュータを並列接続した、
超高速サーチエンジンです。まるでSpace Holidayの中のお話のようですが、そうではありません現実のお話です。

用語のうち、いくつか紹介しておきます。

《ニュートリノ》
ニュートリノ粒子は質量がほとんどありません。
地球を貫通できるので、粒子の速度を光速近くまで加速できれば、地球の裏側との高速通信に使えるかも知れません。
ニュートリノ粒子は、天然では超新星爆発の時に発生します。人工的には粒子加速器で発生できます。
ただ、現在の粒子加速器は何kmもある超巨大な設備です。第1話に出て来るMirror Boysのような小型の装置にするには
実際には何年も研究が必要でしょう。

スーパーカミオカンデは超新星爆発の時に天然に発生したニュートリノを捉えるために建造された設備です。
内壁には浜松ホトニクスが作った何千本もの光電子増倍管が貼り巡らされています。そして、内部の空間には巨大な風船が
入れられ、風船の内部は超純水で満たされています。
超新星から地球に届いたニュートリノ粒子は、地表の岩盤をなんなく通過して、スーパーカミオカンデに到達します。
ニュートリノは風船の中の水を通過する時に、水の分子に衝突して微かな電磁波を発生します。この電磁波は
周囲に散乱するので、壁じゅうの光電子増倍管で検知できます。
光電子増倍管は、電磁波を電気エネルギーで増幅して、信号に変換します。全ての光電子増倍管からの信号の強さと
検出時刻をコンピュータで解析すれば、ニュートリノが到達した時刻やニュートリノの個数がわかる仕組みです。

通常、超新星爆発によって発生したニュートリノ粒子のうち、スーパーカミオカンデで捕捉できるのはたったの数個
だそうです。

Space Holiday 3のMirror Boysでは、水の代わりに重水、即ちH2Oの水素原子の代わりにアイソトープ(放射性同位体)
である重水素を使っています。水素は陽子1個で構成される原子ですが、重水素は陽子1個と中性子1個で構成されます。
即ち同じ体積で質量が2倍です。ちなみに3重水素は中性子が2個あります。
重水を使用してニュートリノの捕捉率が本当に向上するかどうかはわかりません。SFとしてのnakataのアイデアに
過ぎません。Mirror Boysのような衛星型のニュートリノ通信機もnakataの創作です。
スーパーカミオカンデで改良すべき点は水よりもむしろ光電子増倍管だと思います。昨年は水撃作用で連鎖的に
光電子増倍管が割れてしまう事故がありました。修理に何年もかかるそうです。

《Carbon Wings(月面サーバ)》
このアイデアはnakataの全くの創作です。ただ、月面の資源で工場を作るアイデアは以前から知られています。

《ハイパーブレット》
これも全くの創作です。リニアモータで宇宙船を打ち上げるアイデアは存在しますが、グライダーをリニアモータで打ち上げて
成層圏まで飛ぶような旅客機にするというアイデアはオリジナルです。

《インターネットの拡大》
日本国政府のe-Japan計画(首相官邸のサイトです)では光ファイバー網等の高速のインフラを日本全国に敷設する計画です。
IPv6は現在のIPアドレスでは絶対数が不足することを解決するもので、IPアドレスの桁数を増やすものです。
詳しくはweb検索等で調べてみてね。

Space Holiday 1, 2のアイデアは全て現在の科学技術のトレンドをベースにしていますが、Space Holiday 3のネタは
nakataのオリジナルがほとんどです。ただ、現役のプロのエンジニアが考えたアイデアなので、あながち絵空ごとでは
ありません。2010年までにはここに書いたアイデアのいくつかは実現しているかも(ほんまかいな)。

では次回第5話からはストーリーの再開です。お楽しみに。
(それにしても今回のシリーズは字ばっかり。たまには絵も入れんかい!!)


第5話 アボリジニ

アボリジニの人々は、代々暮らした土地の地理を事細かに憶えている。彼等の文化はその土地土地の…って、何だったっけ?
今日のナレーターは久米明です(うそ)。アボリジニの続きはまた後で…

ハイパーブレットの操縦室。

 機長「GPSのデータが狂っている。電波の通信データの方が正しい。」

 副操縦士「なんで私は副機長じゃないんでしょう。」

 機長「この一大事にnakataみたいな突っ込みしてる場合じゃないだろ!!」

 副操縦士「ラジャー。今からではシドニー空港に到着は不可能ですね。最寄りの別の空港とコンタクトを取ります。」

ジェリーを載せたハイパーブレットは当初数分の遅れのみのはずだったが、Mirror Boysの停止によるGPSの座標データの
混乱により、近隣の空港に到着することになった。
GPSはこのストーリーの中の創作ではなくて、いわゆるカーナビ等に使われているGPS(Global Positioning System)
である。

 ジェリー「なんてこった。ホリデイさんに連絡しなきゃ。」

2004年のこのお話の中の全ての航空機には、各座席にweb端末が取り付けられていた。IPv6のおかげである。
ジェリーは到着空港の名前を、ホリデイ宛のメールで送った。

数分後、ホリデイから返信があった。

 ”ホリデイだ。指定の空港に迎えに行く。カンガルーと一緒に待っている。”

脳天気な男だ。
ところで近隣の空港の名前を書けないのは、nakataの知識不足による。そもそもあたしゃ地理や歴史は苦手なのだ。
ホリデイはタクシーで指定の空港に向かった。
あん? うちにはFly!(フライトシミュレータ)がある。空港名を調べてみよう。あった。シドニー国際空港の隣に
シドニー・バンクスタウン空港が。ということでジェリーの到着空港はシドニー・バンクスタウン空港になった(なんと適当な)。

 nakata「本当にFly!で調べました。」

ホリデイの持っている携帯電話はもちろん、2002年の”それ”とは比べ物にならないほど高性能であった。
映像通信スピードは現在の約100倍、カラーカメラ付き、デジタルTV放送は当たり前で、パソコン並みのS/Wが動作した。
パソコンとして使う時は、音声認識付きなのでキーボードは不要。
ホリデイはよくピアノのデータをダウンロードして聴いていた。時にはヨーロッパのオーケストラのコンサートの中継を
見たりもした。2004年の携帯電話はポータブル・コミュニケーション・システム、PCS(ピクス)と呼ばれた。

 nakata「こんな端末が欲しい。」

ホリデイはタクシーでバンクスタウンに向かった。丁度、一機のハイパーブレットが大きな翼を広げて天使のように舞い降りて
来るのが見えた。

 ホリデイ「あれに間違いなさそうだな。どうやら間に合ったようだ。」

バンクスタウン空港にはハイパーブレットが飛び立つためのリニアモータのカタパルトがない。バンクスタウンに
ハイパーブレットが降りてくることはないのである。

 バンクスタウンの航空管制官1「ああ。あれ(ハイパーブレット)をどうするかな。」

 管制官2「シドニー国際空港まで運ぶしかないでしょうね。」

 管制官1「うちにはブースタージェットがあったな。」

 管制官2「そうでした。操縦士もシドニー国際空港に戻る必要があります。彼等に操縦させましょう。」

管制官はクルーに命じてハイパーブレットにブースタージェットエンジンを取り付けた。
幸い機長は元ジェットパイロットだった。副操縦士はジェット機は飛ばせない。ハイパーブレットしか送受できないのだった。
ハイパーブレットは本来リモートコントロールも可能なので、ジェットエンジンを取り付けた場合などは遠隔地にいる
ジェットパイロットによって操縦可能なはずであった。が、しかし、Mirror Boysのトラブルでインターネットが使用不能
なので、機長がジェット機を操縦できて助かったわけである。
乗客からはシドニー国際空港までの搭乗希望があったが、異例のフライトなので、乗客の安全を考えて操縦士と添乗員のみ
の搭乗となった。

 管制室「ハイパーブレットRJ2302へ。2番滑走路で待機せよ。」

 機長「こちらRJ2302。ラジャー。2番滑走路で待機。」

 機長「ジェットだなんて懐かしいな。」

 副操縦士「そうですかね。やたらエンジン音がうるさくて。」

 機長「何いってんだ。このエンジン音がいいんだ。」

 管制室「RJ2302へ。2番滑走路での離陸を許可する。」

 機長「ラジャー。」

話は変わるがFly!にはレイセオン社のHoker(小型ジェット機)があって、正規のジェットエンジン起動手順でエンジンを
起動できる。以下はFly!を参考にして書いてみようと思う。

 機長「メインパワーON。左燃料バルブopen。発電機パワーON。左エンジンスターターON。左翼エンジン始動確認。」

左側のエンジンの回転音が高くなる。

 機長「発電機パワーOFF。右燃料バルブopen。発電機パワーON。右エンジンスターターON。右翼エンジン始動確認。」

続いて右エンジンの音も。

 機長「フラップ傾斜角15度。ブレーキOFF。スロットル全開。」

両方のエンジン音がさらに高い音になり、機体がゆっくりと前に進む。やがて機体は滑走路上で時速300kmまで加速する。
機長はゆっくりと操縦桿を引いた。機体前方が持ち上がる。さらに操縦桿を引き続ける。機体が滑走路を離れる。

 機長「ギアアップ。」

車輪が機体に格納される。

 副操縦士「お見事です。」

 機長「いやあ、久々に緊張したよ。」

 副操縦士「機長、なんだか通常フライトより楽しそうでしたよ。」

機体は4,000フィートまで上昇して、晴れ渡った空に飛行機雲を残しながらシドニー国際空港へと向かった。

ジェリーは空港の情報端末でホリデイに到着を告げた。
コーヒーショップで待つこと10分、ホリデイが現れた。

 ジェリー「ホ、ホリデイさん。フィッツジェラルドです。」

 ホリデイ「やあ。カンガルーは今日は休暇だそうだ。」

ホリデイは気さくな人(いや、ネコか)で、新人にも気を使って緊張させないように気を配った。

 ホリデイ「時差ぼけで疲れてるだろう? 話は昼食のあとにしよう。」

 ジェリー「ありがとうございます。」

2人は空港で昼食を取った。

 ホリデイ「フェリックスは課長に昇級したそうだな。」

 ジェリー「ええ、私の上司です。型破りな人なので周囲には反対者も多いんですが、私は彼のやりかたには
   賛成です。」

 ホリデイ「ハハ。フェリックスらしいな。」

 ジェリー「ところでホリデイさんも昔火星まで行ったって本当ですか?」

 ホリデイ「ああ。かつてはエンターサプライズの艦長だった。」

ホリデイは懐かしそうに空の彼方に目をやった。

 ホリデイ「そろそろ仕事に向かうとするか。」

 ジェリー「はい。」

 ホリデイ「話しておかなければならないことがある。」

 ジェリー「え?」

 ホリデイ「実はな、本来はエクスプローラ社の仕事のはずだった。オーストラリアには広大な平地と有り余る太陽エネルギー
   を利用して月面のCarbon Wingsと同様のデータサーバがある。当社で製造してエクスプローラ社に納められたものだ。
   今回の仕事はデータサーバのメンテナンスのはずだった。」

そこまで話すとホリデイはしばらく沈黙した。表情が険しくなる。やがて意を決したように話し始めた。」

 ホリデイ「我々と一緒にエンターサプライズまで同行してもらう。」

 ジェリー「そ、それって…」

 ホリデイ「そうだ。シャトルで衛星軌道上のエンターサプライズまで飛ぶ。さらにエンターサプライズを復旧してバンアレン帯まで
   行かねばならん。」

ようやくSpace Holidayらしい描写とストーリー展開になってきた。次回第6話に続く。お楽しみに!!

 ジェリー「ちょっと待ってください。アボリジニ(オーストラリアの原住民族)はどうなったんですか?」

 nakata「データサーバの建造の話にからめるつもりだったんだけど… 忘れてた。ワハハハ。」

 ジェリー「第6話が不安だ。」



第6話 新人研修

ホリデイとジェリーを載せたタクシーはシドニー国際空港に向かっていた。ここにはハイパーブレットのカタパルトがある。
あとはシャトルがあれば、ここからエンターサプライズまで行ける。
ホリデイはスポットに携帯電話で連絡した。

 ホリデイ「スポット、準備はどうだ。」

 スポット「OKです。米空軍駐留地から軍用シャトルを1台借りられました。」

 ホリデイ「パイロットは?」

 スポット「申し訳ありません。そこまでは…」

 ホリデイ「仕方がないな。我々の手でなんとかしよう。リモートシステムもあることだし。」

電話を切ると、ジェリーがおそるおそる尋ねた。

 ジェリー「あのう。」

 ホリデイ「何だい?」

 ジェリー「今回私が派遣された訳をそろそろ教えていただけませんか。」

 ホリデイ「すまん。忘れていた。そうだな。元々のエクスプローラ社の方の業務は新人研修の一貫だ。」

 ジェリー「新人を鍛えるために突然の業務をあたえるという、サプライズ社独自の研修ですね。
   噂には聞いていましたが、海外派遣とは思いもしませんでした。」

 ホリデイ「いや、内容は毎年変わるんだ。社員から学生に情報が漏れても構わないようにね。」

 ジェリー「あと、人選はどうやって決めてるんですか?」

 ホリデイ「それは通常は人事上の機密事項だが、今回は話してもいいだろう。当初君は選に漏れていた。
   しかし君の特殊な才能を見抜いたフェリックスが、人事部にかけあって君を加えてもらったんだ。」

 ジェリー「そうだったんですか。」

 ジェリー「で、急遽エンターサプライズまで行くことになった訳は、一体何なんですか?」

 ホリデイ「私もフィオリーナ社長から指示を受けたばかりなんだが、元は国連からの依頼だそうだ。
   Mirror Boysがトラブっているのは聞いているかと思うが、我々はそのMirror Boysを調査しに行く。
   場合によっては修理も行う。」

 ジェリー「Mirror Boysの現在の状況はどうなっているんですか?」

 ホリデイ「24機が全停止状態だ。地上のネットワークはパンク寸前だ。それに、月面サーバCarbon Wingsとの
   通信も不安定だ。Carbon WingsはMirror Boysを中継ルータとして動いていたからな。今は代わりの
   衛星が中継しているようだが、これもデータがオーバーフローしかかっている。」

 ジェリー「で、原因はわかったんですか?」

 ホリデイ「ああ。少しはね。これから我々が調査に行くNo.10のMirror Boyがニュートリノを大量に放射した。
   他のMirror Boysは異常事態と判断して、自動停止した。No.10のニュートリノ放射は止まったが、
   機能不全に陥って、停止している。わからんのはNo.10がニュートリノを大量に放射した原因だ。」

 ジェリー「小惑星の衝突とか。」

 ホリデイ「ありえんな。Mirror Boysを破壊できるサイズの小惑星は、全国の天文台ネットワークが24時間体制で
   監視しているからな。」

 ジェリー「では、No.10の調査が国連の依頼なんですね。」

 ホリデイ「そうだ。そして我々に白羽の矢がたった理由の1つは、今現在、自由になる宇宙船がエンターサプライズのみ
   だからだ。宇宙を航行可能であり、かつ豊富な修理器材を積んでいる設備で、しかもNo.10から最も近い距離に
   あるのはあの船しかないんだ。」

 ジェリー「そして、たまたま空港に近いところにいた、元乗員がホリデイさんとスポットさんなんですね。」

 ホリデイ「そうだ。ことは一刻を争う。」

 ジェリー「私も選ばれた理由はもしかして…」

 ホリデイ「そう。君が人工衛星に関するエキスパートだからだ。しかもたまたま我々と一緒にいる。」

タクシーがシドニー国際空港に到着すると、トレーラーに乗ったシャトルが見えた。スポットが米軍から借用してきた
ものだ。米軍も国連の要請を受けており、それですんなりとスポットがシャトルを調達できたわけだ。

次回第7話に続く。お楽しみに。


第7話 シャトルへ

久々の第7話で、どんなストーリーだったかを忘れかけている。木星でモノリスを発見する話だっけ? それとも
スペースコロニーを巡ってモビルスーツが戦う話? 人工衛星の修理に行く話だったりして。ハッハッハ。
(ってそれで合ってるじゃん。)

Space Holiday 1の火星航行の後、不景気で長期宇宙航行はしばらく流行らなかった。宇宙船も建造されず、唯一
すぐに稼動できるのがエンターサプライズ号であり、エンターサプライズを動かせるのがホリデイやスポット達
だったわけである。

 スポット「話はエクスプローラ社にも行き渡っていて、優秀なパイロットが名乗りをあげてくれました。」

シャトルを乗せたトレーラからスポットが降りて来た。その後に続いて降りて来たエクスプローラ社のパイロットとは…

 ホリデイ「マーク!!」

そう。ようやく執行猶予が解除になったマークであった。

 マーク「ご無沙汰しております。その節は大変お世話になりました。」

 ホリデイ「レイチェルとサラ、リンダは元気かね。」

 マーク「レイチェルはCIAを退職してエクスプローラ社に就職しました。サラは音楽院でピアノを勉強してます。
  リンダはバスケットボールに燃えてますよ。」

 ホリデイ「ほう。大したものだな。」

 ジェリー「マークさんですね。お噂はかねがね…」

 マーク「ぼうずがフィッツジェラルドか。フェリックスによろしくな。」

 ジェリー「ぼ、ぼうず…」

絶句するジェリー。

 スポット「フライトが5時間後に迫っています。空港に臨時作戦室が設けてあります。こちらへどうぞ。」

空港片隅の一室。大形の有機EL(エレクトロルミネセンス)スクリーンに、国連担当官の姿が映し出される。
(有機ELディスプレイは三洋電機が2001年に試作、モトローラの携帯電話に使用された。液晶よりも低消費
 電力で、コントラストも高く、何よりも薄い。)ELの大型化はSpace Holiday 3での架空のお話である。
いわゆるTV会議システムである。

 ホリデイ「で、状況も我々に調査しろと?」

 担当官「そうです。インターネットのパケットはあふれ、世界中が混乱しています。あなたがただけが頼りなんです。

 ホリデイ「国連なら軍事用の航宙艦などいくらでも手配できそうなのに、なぜ民間企業の我々に?」

 担当官「かつては確かに軍の方が技術は進んでいました。しかしながら20世紀末のマイクロプロセッサの普及に
  よって、民間のコンピュータテクノロジーの方が軍を上回るようになりました。宇宙船も例外ではありません。
  高速のプロセッサアレイが民間で開発されたことによって、ロケットの航行用新型エンジンの制御が容易に
  できるようになったのです。」

実際、カーナビ用のGPSが湾岸戦争で使用された。

 ホリデイ「なるほど。ところで、必要装備の準備は? 宇宙服は我々ではすぐには用意できないが。」

 担当官「サプライズ社の宇宙服を国連で買って用意していあります。その他、スペースアシボ2台、ポッドを1台、
  既にシャトルに搭載してあります。ご幸運をお祈りします。Mirror Boy No.10の起動データは既にエンターサプライズの
  ゲスト用メモリバンクに転送済みです。ID No.UN-10543でアクセスできます。」

 ホリデイ「了解した。ではシャトルに搭乗するとしよう。」

第8話に続け!!


第8話 エンターサプライズ

久々のストーリー再開で、どんなお話だったか作者も忘れかけている。

 nakata「ストーリー変えちゃおうか。」

 ジェリー「そ、そんな無責任な。オーストラリアまで飛ばしておいて。」

シャトルはイオンロケットエンジンを搭載しているので、ハイパーブレットほど加速は急ではない。その代わりカタパルトから
射出されたあとはエンジンの推力で上昇するので、無重力になるハイパーブレットと異なり、成層圏まで加速を続ける。

シドニー国際空港。
シャトルはハイパーブレット用のカタパルトに載せられ、ホリデイ、スポット、マーク、ジェリーの4人が搭乗した。
パイロットはマーク、補助をスポットが努める。
通常ならリモートで管制センターの指示を受けられるところだが、Mirror Boysの停止により、不可能となった。
代わりにシドニー国際空港の管制室が、臨時の管制室として使われることになった。軍から派遣された管制官が
管制室に待機している。

シャトルのコックピット。

 マーク「スポットさん、通信周波数を航空チャンネルに切り替えてください。」

 スポット「了解。変更完了。」

 管制官「リニアモータのコンデンサに充電完了。120秒後に加速を開始する。」

 マーク「ラジャー。エンジン始動シーケンス起動。加速開始にシンクロした。」

エンジンレスのハイパーブレット用のカタパルトは、イオンロケットの噴射に耐えうる構造にはなっていない。
エンジンはカタパルトを痛めないように、シャトルがカタパルトから射出された後で点火される。

加速が始まる。ゆっくりと機体が動き出す。次第にジェットコースターのように加速する機体。マーク達の体は
コックピットの中で、座席後方に押し付けられる。
カタパルト最上部で機体はマッハ0.9まで加速され、夕焼け空へと放り出された。
と同時に無事にエンジンに火が付く。さらに加速を続けて、機体は虚空の彼方へと消えて行った。

コックピット。
成層圏に近付き、辺りは漆黒へと変わって行く。

 管制官「こちら管制室。レーダーでシャトルを捕捉中。予定軌道に対して誤差±0.2%。補正中。」

 マーク「ラジャー。引き続きサポートをよろしく。エンターサプライズとのランデブーポイントまで32分40秒。」

 nakata「で、こちらが32分40秒経ったシャトルです。」

料理番組かい!

 スポット「エンターサプライズの位置を確認。通常軌道上に静止中。異常無し。エンターサプライズのメインコンピュータ
  と交信します。通信を確立しました。」

 管制官「管制室のサポートを終了する。では、任務の成功と乗組員の無事の帰還を祈る。」

 ホリデイ「ラジャー。ありがとう。」

エンターサプライズ後部のシャトル格納庫の扉が開く。エンターサプライズの誘導により、シャトルのスラスタが調整され、
シャトルが正確に格納庫に入って行く。シャトルが格納庫のアームにロックされ、扉が閉まった。

 ホリデイ「格納庫に空気を満たしている時間が惜しい。宇宙服で格納庫に出る。」

4人は宇宙服を着用、器材とともにシャトルのエアロックを出た。
エンターサプライズの中で重力があるのは、外郭のドーナツ上の部分のみである。ドーナツを円周方向に回転させることに
よって遠心力による重力を作り出している。しかしながら格納庫は中心部にあって回転していないので、無重力だった。
4人は格納庫の壁の取っ手を伝って、エンターサプライズ側のエアロックへと向かう。

ようやくエアロックに辿り着いて、艦内に入ることができた。

 ホリデイ「コンピュータ、生命維持装置作動。」

 コンピュータ「ホリデイ艦長の声紋と認識。生命維持装置を作動させます。艦長、お久しぶりです。」

 ホリデイ「今は艦長ではないが。」

エンターサプライズは火星航行後は博物館として使われていたため、メインコンピュータのデータベースも敢えて
当時のままにされていて、更新されていなかった。

 ホリデイ「艦内温度と酸素量が正常になるまで20分かかる。それまでは宇宙服で行動してくれ。」

 他の3人「了解しました。」

 マーク「ジェリーに艦内を案内したいところだが、時間がない。メインブリッジに急行する。」

メインブリッジ。

 マーク「コンピュータ、Mirror Boy No.10 の座標にコースをセット。」

 コンピュータ「Mirror Boy… データベースにありません。」

エンターサプライズは静止衛星だからMirror Boysと衝突する危険がない。で、Mirror Boysの知識をインプットされて
いなかった。

 マーク「コンピュータ、シャトルのコンピュータにアクセスして、Mirror Boys の座標をダウンロードしてくれ。」

 コンピュータ「ダウンロード完了。コースセット完了。」

 マーク「スラスタで方向調整後、120秒後にメインエンジン点火。」

エンターサプライズのスラスタが作動して、船体がゆっくりと回転する。Mirror Boy No.10の方向を向いて、
船体が静止した。

エンターサプライズのメインエンジンに久々に火が入る。イオンロケットではない。プラズマ帆走エンジンの方だ。
イオンロケットの20倍の超高速エンジンである。
エンジン点火とともにエンターサプライズの周囲に直径20kmもの巨大なオーロラのような美しいプラズマの帆が
広がる。エンターサプライズの帆は太陽風を受けて加速を始める。その姿はまるで羽根を広げた孔雀のようだった。

 コンピュータ「生命維持装置、通常レベルに復旧完了。」

 ホリデイ「もう宇宙服を脱いでも構わんぞ。」

 ジェリー「やれやれ、一安心。」

 マーク「君の出番はこれからさ。」

久々の航行のエンターサプライズ。Mirror Boy No.10 の状況は?
次回へと続こうかな(続けってば!!)。


第9話 才能

通常、静止軌道上にある宇宙ステーション・エンターサプライズと異なり、Mirror Boysは、GPS衛星同様に、
地球を縦横に横切る動的な軌道上にあった。
そのため、エンターサプライズは静止軌道を離れて、Mirror Boy No.10を追跡するわけである。

 スポット「Mirror Boysの設計情報がメーカから送られて来ました。」

 ジェリー「えっ、今頃になって入手できたんですか?」

 ホリデイ「設計情報は企業秘密で極秘扱いなんだよ。で、直前に直接エンターサプライズにダウンロードするよう
  最初から決まっていたんだ。」

 スポット「フィッツジェラルド君、解析を手伝ってくれ。」

 ジェリー「了解しました。」

スクリーンに映し出される機構設計図。

 ジェリー「思ったよりシンプルですね。次はプロセッサ内の論理回路構成図をお願いします。」

スクリーンに論理回路を表すコンピュータ言語と、回路ブロック図が表示される。

 ジェリー「あと、停止直前の信号記録も。」

ジェリーは才覚を発揮して、次々と推理を進めた。

 ジェリー「No.10の大量のニュートリノ放射(第6話参照)は、プロセッサ8-15Aと7-P32が破壊されたためと
  考えられます。この2つのプロセッサがニュートリノの量を管理していたからです。また、この2つのプロセッサは
  隣接していて、かつNo.10の外郭付近に位置しています。何か微少で高速の衝突物が、外壁を突き破って
  プロセッサを破壊したんでしょう。」

ホリデイは目を見張った。メーカによる事前調査とほぼ一致していたからだ。その上、メーカ側の調査結果は数十名の
特別チームが何時間もかけて解析して、今しがたエンターサプライズに直送されたものだからだ。ジェリーはそれを
たったひとりで、しかも20分でやってのけた。

 ジェリー「衝突した物体の特定は、No.10を直接見てみないとなんとも言えないですね。」

 マーク「あと15分でMirror Boy No.10 が視界に入る。」

次回に続く…


第10話 船外活動

多忙な毎日の合間を縫ってちょこちょこと書き綴っているので、1話1話が短く、既に10話にもなる
Space Holiday 3である。

エンターサプライズのブリッジ。Mirror Boy No.10の後方500m。

 マーク「Mirror Boy No.10の軌道にシンクロします。No.10の外観では損傷はないようですね。」

 ホリデイ「ジェリーの推測が当たっているとすると、破損部分が小さ過ぎて見えないだけかも知れん。」

 スポット「アシボを出しますか?」

 ホリデイ「そうしよう。」

スペースアシボ02は、Space Holiday 2に出て来たロボットスペースアシボの新型で、ポッド(小型の宇宙艇)無しで
単独で宇宙空間を飛び回ることができる。

 ホリデイ「ロボットとはいえ、万が一のことを考えてケブラーロービング(抗張力プラスチック繊維。東急ハンズでも
  売ってます)の命綱を付けてやれ。」

 アシボ02「Mirror Boy No.10の座標をダウンロード完了。メインスラスタ作動。サブスラスタ準備完了。
  アシボ02、発進します。」

 ジェリー「新型は台詞があるんですね。」

 nakata「そうです。」

アシボは船外に出ると甲板を歩いて船の中心に辿り着いた。スラスタを噴射させて、秒速5mでMirror Boysのところまで
ゆっくりと飛んで行く。

 アシボ「カメラからの映像を伝送します。」

エンターサプライズのメインスクリーンにアシボの視界が映し出される。次第に大きく映し出されるMirror Boy No.10の姿。

 アシボ「No.10の周囲を回ります。」

アシボはまるでリンゴの皮をむくような軌道でNo.10の回りを飛んだ。
エンターサプライズのスクリーンにはNo.10の表面の映像が流れて行く。

 アシボ「No.10のスキャンを完了しました。外壁のN-23ミラーパネルに穴があいています。」

 ジェリー「N-23の拡大映像を送信してくれ。」

 アシボ「ラジャー。転送中。」

スクリーンには直径1cmほどの穴と周囲にひびの入ったミラーパネルが映し出された。」

 ホリデイ「ジェリーの予測どおりだ。」

 スポット「アレの出番ですね。」

 ホリデイ「そうだな。アシボのプログラムを起動してくれ。」

 スポット「了解しました。コマンド送信完了。」

アシボの胸の蓋が開く。アシボは中から何やら取り出して、No.10の穴に放り込んだ。

 ジェリー「何ですか? あれは。」

 ホリデイ「C53だ。」

 ジェリー「C53って何ですか?」

 ホリデイ「知らんのか。Space Holiday 1 の第2話を読みたまえ。マイクロマシンC53のことが書かれている。」

 ジェリー「は、はぁ…」

 スポット「C53を穴に沿って侵入させます。穴の終端にはミラーパネルから入った異物が見つかることでしょう。」

スクリーンはC53からの映像に切り替わる。

 ホリデイ「あれだ。異物は。何だろう。」

 ジェリー「あれは古い人工衛星の太陽電池パネルですね。」

 ホリデイ「あんな小さな破片だけでわかるのか。」

 ジェリー「ええ。」

 スポット「C53の分析結果では、旧式のアモルファス太陽電池パネルである確率が99.3%であると出ています。」

 ホリデイ「なるほど。でも人工衛星の航行は天文台ネットワークに関しされているはずでは…」

Mirrir Boy No.10に衝突した人工衛星の破片は一体どこから来たのか。
はたまた修理は可能なのか。今一つアクションシーンに欠ける今回のお話。果たして山場はあるのか?
次回をお楽しみに。


第11話 携帯電話

エンターサプライズのブリッジ。

 ホリデイ「破片はどこから飛んで来たんだろう。」

 ジェリー「古い人工衛星に小惑星のかけらが当たって、破損した断片が衝突したのでは?」

 スポット「あり得ますね。人工衛星自体がこなごなにならず、一部が欠けただけなら天文台の観測にも
  引っ掛からない…」

 ホリデイ「どの衛星が破損したかを特定するのは困難なようだな。それはあきらめるとしよう。」

 スポット「修理対策を考えましょう。」

 ホリデイ「破片が30cm以上の深さにあるので、C53では修理は無理だな。」

 スポット「作業が複雑過ぎて、アシボにも無理ですね。」

考え込む二人。

 マーク「艦長、ジェリーが見当たりませんが。」

 ホリデイ「な、何?」

 スポット「後部エアロックが開きました。ジェリーでしょう。」

 ホリデイ「ま、まずい。今回の宇宙服には通信機が搭載されていない。連絡が取れない。」

スクリーンに、Mirror Boy No.10に向かうジェリーの姿が見えた。アシボ同様、スラスタを調整して、No.10への
方向を補正している。

 ホリデイ「いかん、命綱をつけていないじゃないか。私も出る。」

かつてSpace Holiday 1でフェリックスを危険にさらしたホリデイは、気が気ではない。

 スポット「まあまあ、あわてずに。少し様子を見ましょう。」

 ホリデイ「お前は水戸黄門か!」

 マーク「誰です? ミトコーモンって?」

 スポット「そういうつっこみをしてる場合じゃないでしょう。」

3人がおちゃらけている間に、ジェリーはNo.10のN-23パネルまで辿り着いた。

 ジェリー「これだな。」

原始的ではあるがドライバーでネジをはずして、N-23パネルを持ち上げた。

 ジェリー「3枚の回路基板を取り替えれば修理できる。まず故障品を持ち帰ろう。」

エンターサプライズのブリッジ。

 スポット「大変です。何か高速の微少物体群が接近してきます。」

 マーク「もしかして、No.10に衝突した太陽電池パネルの破片の残りでは?」

 ホリデイ「おそらくそうだろう。いかん。ジェリーに伝える手段がない。」

 スポット「今からでは手後れです。無事を祈るしかないですね。」

No.10の付近。

 ジェリー「故障した基板は回収した。あとは持参したこの新品の基板を取り付け…」

突如いくつかの破片がジェリーとアシボを襲う。幸いにも破片はさらに微少だったため、No.10には多少の傷を残した
だけだった。チタン合金のアシボには傷一つつかなかった。
だが、ジェリーの宇宙服はそうはいかなかった。微少な亀裂を作った。

 ジェリー「なんてこった。少しずつ空気が漏れている。」

エンターサプライズのスクリーンに、じたばたするジェリーの様子が映る。。

 ホリデイ「ジェリーの様子がおかしい。」

 スポット「破片で宇宙服に穴が開いた可能性が高いですね。」

 ホリデイ「エンターサプライズごと接近して回収できんか。」

 マーク「無理です。これ以上近付くと彼は本艦のプラズマに汚染されます。」

No.10の付近。

 ジェリー「持ってあと15分だ。なんてこった。スラスタが動かない。船にも帰れない。アシボに指示を出そうにも
  通信機も使えない。そ、そうだ。携帯電話があった。」

宇宙服の腕の部分から手を抜いて、ポケットをまさぐった。あった。普通の携帯電話。
宇宙空間に基地局などあるわけはないが、エンターサプライズなら、どの周波数帯でも常時キャッチしてくれるはずだし、
エンターサプライズの超高速のメインコンピュータなら携帯電話の信号をデコードするなど、容易いことだった。

 ジェリー「ホリデイさん、ジェリーです。応答してください。」

エンターサプライズ。

 スポット「ジェリーから電磁波による交信が入っています。コンピュータでデコードします。」

 コンピュータからのジェリーの声「ホリデイさん、ジェリーです。応答してください。」

 ホリデイ「スポット、こちらから発信できるか。」

 スポット「やってみます。

スポットは、メインコンピュータ上に携帯電話のシミュレータプログラムを構築した。

 スポット「ジェリー、聞こえるか。」

 ジェリー「聞こえます。酸素はあと13分ほどあります。スラスタが故障して動けません。」

 ホリデイ「了解した。アシボにジェリーを運ばせる。そのままじっとしてろ。」

 スポット「アシボの手動操縦は無理です。プログラムを組み直さないと。」

 ホリデイ「アシボを自由に操れる男と言えば。」

 マーク「フェリックス…」

 ホリデイ「彼は会社にいるはずだな。」

 スポット「Mirror Boys を復旧しないと、フェリックスによる遠隔操作は無理ですね。」

 ホリデイ「ジェリー、良く聞いてくれ。まず、宇宙服の穴を塞げ。これであと30分は持つはずだ。修理キットは膝に
  入っている。」

 ジェリー「りょ、了解。」

ジェリーは膝から取り出したシールのようなもので穴を塞いでみた。酸素の流量は正常に戻った。

 ホリデイ「いいか。至急Mirror Boy No.10を修理するんだ。でないとアシボを動かせん。」

 ジェリー「交換基板を装着します。」

ジェリーは慣れた手付きで基板をセットした。

 ジェリー「これでよし。修理完了です。再起動シーケンスをエミュレートしてエンターサプライズから送信してみて
  ください。」

 ホリデイ「スポット、頼む。」

 スポット「再起動シーケンス送信。No.10から反応がありました。セルフチェック起動中。異常なし。No.10以外の
  Mirror Boysと交信中です。あ、全システムが復旧しました。」

 ホリデイ「ジェリー、成功だ。早速フェリックスに連絡を取る。そのまま待て。」

 スポット「Mirror Boysが停止中に溜まっていたメールが輻輳(ふくそう)して、本艦と地上との連絡が取れません。」

 ホリデイ「何だって? メールが蓄積されているサーバはどこだ?」

 スポット「93%が月面のサーバCarbon Wings内です。」

 ホリデイ「やむを得ん。Carbon Wingsを停止しろ。」

 スポット「無理です。Mirror Boys経由でないとコマンドを送信できません。」

 ホリデイ「輻輳が止まるまでの時間は?」

 スポット「半日分のパケットですから、30分くらいはかかるでしょう。」

 マーク「Carbon Wingsを破壊しましょう。」

 スポット「そ、それは…」

 ホリデイ「そうしよう。ただし、Carbon Wingsの太陽電池パネルと補助バッテリーのみを破壊するんだ。」

 マーク「了解。」

マークは、2度と使われることのないはずであった武器システムを起動した。

 マーク「コンピュータ、迎撃システム924にアクセス。承認コード マーク8134α−2239。」

 コンピュータ「承認しました。迎撃システムのコンソールを表示します。」

エンターサプライズには超高性能の小型ミサイルが搭載されていた。イオンロケットで高速にターゲットに
辿り着き、小さな物体のみを、周囲に影響を与えずに、確実に破壊する。冷戦時代のスターウォーズ構想の
産物だった。

 マーク「コンピュータ、ターゲットロック。」

マークは月面のサーバの太陽電池とバッテーリーの座標をインプットして、迷わずミサイルの発射ボタンを
押した。

まるでロケット花火のように、12本の光の帯が次々と船からたなびいて行った。

ミサイルは正確に太陽電池とバッテリーを破壊して、Carbon Wingsは停止した。

 スポット「輻輳が止まりました。」

 ホリデイ「フェリックス、ホリデイだ。時間がない。話はあとだ。アシボを動かしてくれ。」

次回に続く。


第12話 釣りは楽し

 ミケ「ミケです。ホリデイさん、緊急の用事のようですけど、フェリックスは休暇を取って子供達と釣りに出かけたわ。
  携帯電話は持ってないので連絡は取れないの。」

 ホリデイ「な、なんだって?」

蒼ざめるホリデイ。

 マーク「そうだ、それだ、釣りですよ、釣り!!」

 ホリデイ「こんな時に何を言ってるんだ!!」

冷静なホリデイも火星でのフェリックスのことが脳裏をよぎって、パニック状態だ。

 マーク「ジェリー! よく聞け。アシボにしがみつくんだ。アシボの命綱を我々が手繰り寄せる。」

 スポット「なるほど、それは名案だ。」

スポットは言うがはやいか宇宙服を再び着用した。

 マーク「ホリデイさんも早く!!」

 ホリデイ「わ、わかった。」

正気に戻ったホリデイも宇宙服を着用した。スクリーンには、アシボにしがみつくジェリーの姿が映る。

 スポット「後部ハッチのエアロックでは空気を抜くのに時間がかかる。居住区のロボット用の出入り口から出よう。」

 マーク「了解。開閉はコンピュータに任せよう。コンピュータ、60秒後に32番パネルをオープン、120秒後に
  クローズ、エアロックシステムはオートマチックにしてくれ。シーケンススタートは10病後。」

 コンピュータ「シーケンススタート10秒前、9、8、7、6、5、4、3、2、1、スタート。60秒後に
  32番パネルオープン。」

 マーク「それ、急げ。」

外部に通ずるパネルのところまで走る3人。エレベータのような箱に入る。天井のパネルが開き、3人は船外表面にせり上がる。
命綱は後部ハッチから船の前方に折り返して、その先は真直ぐアシボに伸びている。
3人は船の先端までスラスタで移動して、各々命綱を船外の取っ手に引っ掛けた。マークがアシボの命綱を手繰り寄せる。
3人で命綱を、始めはそっと、しだいに強く手繰り寄せた。
1分ほどかかって、ジェリーとアシボに辿り着いた。

マークとスポットの2人でジェリーをかかえて、再びスラスタでパネルに戻る。後を追うホリデイ。

パネルから入って、早速ジェリーのヘルメットをはずすマーク。

 マーク「大丈夫か。」

酸欠を心配するマーク。

 ジェリー「大丈夫です。なんとか酸欠は免れました。」

 ホリデイ「ばかもの!! 勝手に行動しやがって!!」

 ジェリー「すみません…」

 ホリデイ「でも、よかった。無事に戻って来てくれて…」

Mirror Boy No.10の方はその後正常稼動し続けた。が、しかし、Carbon Wingsを止めてしまったので、
インターネットの正常な復旧には至っていない。

Carbon Wings修理のお話はSpace Holiday 3 の第2部に続く。
(第1部あっけなくおしまい。)



第13話 Carbon Wings

 ホリデイ「♪ロロドドジュジュ、クロクロマルゴフルフル…」

 ジェリー「何ですか?その変な歌は。」

 ホリデイ「レハールの喜歌劇『メリー・ウィドウ』でダニロが歌う歌さ。ロロ、ドド、ジュジュ、クロクロ、
  マルゴ、フルフルってのは登場人物でパリのレストラン、マキシムの女達の名だよ。」

 ジェリー「詳しいですね。」

 スポット「nakataが先月オペレッタに出演したからさ。」

 マーク「担当はシンバルだったらしいけど。」

 nakata「はい。」

などという雑談をしながら、一行は、前回のお話の後、マークの会社エクスプローラ社の支社を訪問するために
シドニー郊外に向かった。
エクスプローラ社の支社は観光地とは少し離れたところに建てられており、周囲は閑静である。

社に着くと、支社長が出迎えてくれた。

 スティーブ(支社長)「初めまして、ホリデイさん。ようこそ、わが社へ。お噂はマークから伺っております。」

 ホリデイ「恐縮です。本来なら御社の仕事を先に済ませるところが、とんだトラブルで遅れて申し訳ありません。」

 スティーブ「軍の要請なら仕方がありませんよ。それより危険な任務で大変でしたでしょう。ご無事で何よりです。
  仕事の方は御社のサポートの協力が得られて、ほぼ片付きつつあります。」

2人は立ち話をしながら、互いの腕時計型の情報端末のBlueToothで、名刺情報を交換し合った。20世紀のような
紙の名刺は最近は流行りではない。

 スティーブ「では、中をご案内しましょう。」

オーストラリア支社はオフィスビルであり、生産工場は持たないが、今回ホリデイ達が修理するはずだった
オーストラリアのサーバの保守・管理を行うため、サービスマンが常駐している。

一行は一通り会社を見学した後、会議室に通された。

 スティーブ「で、今回のサーバ修理の件ですが、部下によればなんとかなりそうとのことです。」

 ホリデイ「では、我々はお役御免ということで…」

 スティーブ「はい。遠くからご足労でしたが。ただ…」

 ホリデイ「ただ…? 何でしょう。」

 スティーブ「実は、マークに出動要請が出ていまして。Carbon Wingsの件で。」

(第14話に続く)


第14話 Moon Light

 ジェリー「Space Holiday 3 ってなんか修理の話ばかりですね。」

 ホリデイ「作者がネタ切れかもね。」

 nakata「ワハハハハハ」

実際オケやピアノに打ち込み出すと、あまりアホな空想が浮かばなくなったりはする。でもイマジネーションの世界は
頭を柔軟にしてくれるので、Space Holidayの執筆は止められない。読者の有無には関係がない。これは私の趣味の世界
なのだから。

 nakata「ジェリー君、今回のフライトは単に月面に行って帰って来るだけでは済まないよ。ふふふ。」

 ジェリー「何だかコワっ!!」

 スティーブ「君たち一体誰と話してるんだね?」

 ホリデイ「失礼しました。大ボケの作者とです。マークの出動要請の件に話を戻しましょう。」

 スティーブ「Carbon Wingsの修理に彼をパイロットとして出動するよう指令がありました。明後日の出発です。
  それと、あなたがたにも同行してもらいたいんです。」

 ホリデイ「というと?」

 スティーブ「我々はサーバの保守しかできません。修理はとても…」

 ホリデイ「スポット、どうだろう?」

 スポット「今回も台詞ばかりでアクションシーンが少ないですね。」

 ホリデイ「そういう問題ちゃうやろ!!」

 スポット「冗談です。我々が破壊したのはソーラーパネルのみなので、交換部品さえ手に入れば修理は難しく
  ないでしょう。」

 ジェリー「私も行くのですか?」

 スポット「君は今回のシリーズの主人公だ。行かざるを得まい。」

 ジェリー「はぁ。」

外は夕刻で、少し欠けたまあるい月が出ていた。

(第15話に続く)



第15話 ホプキンス

20世紀の代表的なハイテク犯罪と言えば、クラッカー即ち悪徳ハッカーであるが、ここSpace Holiday 3の
犯罪者はネットワークからの情報と、様々な電子機器による制御でレールガンを作り上げた。

Mirror Boysに衝突した古い人工衛星の太陽電池パネルを破壊したのは、小惑星のかけらなどではなかった。
ホプキンスが地上から発射したレールガンの弾丸であった。

彼は次の獲物を見つけていた。ホリデイの乗るシャトルだ。

レールガンとは冷戦時代に考案された巨大な大砲のようなものであるが、ホプキンスのそれは長さ数mの小型のもの
で、民家から発射された。シュワルツネッガー主演の映画「イレイザー」では持ち運べるレールガンがテーマとなって
いたがそこまで小型化できるものかどうか、私にはわからない。

ホプキンスはアメリカにいた。オーストリアから発進するホリデイのシャトルは月面まで飛ぶ。ホプキンスは、
なんと月面に着く直前を狙おうと考えていた。

ホプキンスには特にシャトルや人工衛星に恨みはなかった。ただ自分の作り出したレールガンの性能を試したかった
だけだった。彼にとっては単なる趣味の世界であった。

シャトルの発着スケジュールは既に軍のコンピュータから入手済みだった。昔のように軍のコンピュータに直接侵入する
ような真似はしなかった。CS放送用のアンテナで、軍事衛星からの電波を傍受して、信号をネットワーク上のグリッド
コンピュータにかけて暗号を解読するだけだった。

人気のない山腹に彼の小屋があった。そこにはレールガンが隠されていた。GPSとパソコン、望遠鏡、それだけで
シャトルに照準を合わせられた。今日は満月。晴れ渡った夜空に次第に月が昇って行く。彼はCMOSカメラ付きの
望遠鏡の映像をパソコンのモニタで眺めた。
パソコンにはシャトルの軌道計算を行わせて、同時に望遠鏡をサーボモータで制御して、シャトルが映るようにした。
ぼんやりとだが、シャトルの姿が映っていた。

そんなこととはつゆ知らず、ホリデイ達はシャトルの中にいた。先日のバンアレン帯へは高速のエンターサプライズ
で向かったので、数時間で着いたが、今回はシャトルでしかも38万kmも先の月への旅である。到着まで2日を要した。

宇宙食はアポロ計画(古っ!!)の頃からは格段に改善されていたが、それでも味気ないものだった。

 ジェリー「早く金魚が食べたい!!」

 ホリデイ「へっ?」

キャラクターはネコである。

 スポット「レイチェルからメールが入っています。Mirror Boysに衝突したソーラーパネルの元の人工衛星は、
  人為的に破壊されたものであることがわかったそうです。」

 ホリデイ「な、なんだって? テロリストの仕業か?」

 スポット「わかりません。ただ、犯人の次のターゲットはここ数日中に飛行する宇宙船らしいこともわかりました。」

 ホリデイ「ここ数日中といえば…」

 マーク「我々だけです。」

 ホリデイ「なんてこった。」

 ジェリー「レイチェルさんはどこから情報を得たんでしょう。」

 マーク「たぶん昔の仕事仲間だ。」

 スポット「その通りです。それから、Mirror Boysの件は、数日前に地上から何か微少な物体が発射された痕跡が
  天文台等で観測されていたそうです。」

 マーク「ということはCIAは犯人の目星をつけているな。ネットワーク情報の漏えいから、今度は我々がターゲット
  らしいことがわかったわけだ。」

 スポット「コースを変更しますか?」

 ホリデイ「ああ。ただそれだけではダメだ。エンターサプライズを呼び寄せよう。」

(第16話に続く)


第16話 ハリー

ハリーはCIA時代のレイチェルの同僚で、現在はNSA(国家安全保障局)に努めていた。彼の調査では、ここ数時間
以内にグリッドコンピューティングによって暗号解読プログラムが動作したことと、解読前のデータが軍事衛星の送受信
データと一致していることがわかっていた。

これは何者かが軍事機密を盗み出して解読して、何かをやらかそうとしていることを意味する。
解読されたデータを元に、ハリーはターゲットを予測した。それはシャトルの航行予定データであり、シャトルが
ターゲットであることが見て取れた。

また、グリッドコンピューティングへのアクセス記録と、各地のインテリジェントルータ内のメモリデータから、
おおよそのアクセス場所が特定できていた。該当箇所では天文台からの情報により、衛星の迎撃記録があることがわかり
(Mirror Boysの故障の間接的な原因である)、レイチェルへの報告となったのである。

調査内容は国家機密であったが、昔の同僚の夫が危険にさらされているのを放っておくわけにもいかず、情報を流した
のであった。

 ハリー「奴の居所を突き止めて必ずとっ捕まえてやる!!」

一方ホリデイ達は、エンターサプライズを遠隔起動していた。

 ホリデイ「承認コードCLP-950ホリデイ。制御システム起動。」

 ジェリー「CLP-950ってnakataのクラビノーバの型名じゃないですか。」

 スポット「せっかくハードなストーリー展開になって来たのに、こんなところで小さなボケをかますなんて…」

エンターサプライズは月に向かって高速に無人で飛行した。さすがにプラズマエンジンは速い。数時間でシャトルに
追い付いてしまった。

 スポット「犯人に見つかりませんかね。」

 ホリデイ「Space Holiday 2に出て来た艤装装置を作動させている。見つかりゃしない。」

 ジェリー「で、これからどうするんですか?」

 ホリデイ「エンターサプライズからポッドを打ち出して、シャトルまで飛ばす。我々はポッドに乗ってエンターサプライズに
  乗り込む。シャトルは自動操縦で月まで飛ばす。途中狙われても問題ない。なぜなら我々はエンターサプライズで月に
  向かうからだ。」

 マーク「そううまく行きますかね。」

 ホリデイ「幸運を祈るだけだ。」

ホプキンスはレールガンのエネルギー充填中だった。直径わずか20mmの超硬金属の弾丸を、電子式の加速器でマッハ20
まで加速して打ち出す代物である。
レールガンの外観は大きなカタツムリのようだった。渦巻き部分を3,000回も周回して、弾丸が飛び出す仕組みだった。

同時に、シャトルの軌道計算データと現在の気象データを元に、レールガンの姿勢制御を行っていた。38万km先の
小さなシャトルを地上から撃つという、不可能と思えることに、彼は挑戦しようとしていた。

一方、ハリーはグリッドコンピューティングのアクセス結果の流れ先をさらに詳細に調査して、犯人の割り出しを急いでいた。

 ハリー「州までは特定できたんだが、この先がわからない。まてよ。犯人は特殊な材料を購入して武器を製造したのかも
  知れない。クレジットカードのアクセス記録を分析してみよう。」

ホリデイ達はエンターサプライズから打ち出したポッドに乗り込むところだった。

 ジェリー「狭いですね。大丈夫ですか?」

 スポット「元々1人用ですからね。でも設計値では2人までは大丈夫です。」

まずスポットとジェリーがエンターサプライズに行き、2往復目でホリデイとマークも脱出する。
ポッドはスポットとジェリーを乗せて無事エンターサプライズのエアドックに着いた。

 ホリデイ「さあ、我々の番だ。」

スポットがポッドをシャトルに打ち出そうとしたその時だった。
シャトルでガン、と軽く何かがぶつかる音がして、続いて船体が暴走し出した。

 マーク「メインエンジン停止。姿勢が不安定です。安定させます。」

マークは補助エンジンを停止して、スラスタで暴走を止めた。再度補助エンジンを作動させて、軌道を安定させた。

 ホリデイ「エンジンを攻撃されたに違いない。急いで脱出しよう。」

地上ではホプキンスがほくそ笑んでいた。だが、望遠鏡の映像では船体は持ち直している。第2弾を準備せねば。
充電に10分はかかる。まあ、1撃目は成功した。今度は補助エンジンを狙えばよい。のんびり行こう。そう彼は
思った。

NSAには、天文台から新たなが2つの情報が入っていた。

 天文台「ハリー捜査官、いいニュースと悪いニュースだ。」

 ハリー「まず悪い方は?」

 天文台「シャトルがやられた。補助エンジンで航行中だ。だがまたやられるのも時間の問題だろう。」

 ハリー「くそっ遅かったか。で、いい方のニュースは?」

 天文台「発射箇所を特定できたよ。近隣の天文台で連携して地上を観測していたんだ。」

 ハリー「そうか!! そいつはでかしたぞ。」

(腹が減ったので、第17話に続く)



第17話 Shooting Star

ホプキンスのレールガンの弾丸は発射を待っていた。カタツムリのように見えるレールガンのボディは、実は2枚の
巨大な電磁石だった。弾丸は超硬セラミックでコーティングされた金属で、電荷を蓄えさせることによって、
電磁石の中を瞬時に3,000回転しながら加速していく。セラミックのコーティングは大気中で焼けこげないために
必要だった。それでも表面は白く輝いて、まるで地上から天空へと逆に打ち出される流れ星のように夏の夜空へと
吸い込まれて行った。

第2弾は補助エンジンに命中した。
ホリデイ達は既にエンターサプライズに避難しており、シャトルの中にまだ誰かいるように見せけるために、
マークがシャトルを遠隔操縦して、スラスタで船体を安定させた。

ハリーは車の中から、第2弾が発射されるのを目の当たりにした。小屋の下に着くと、部下とともに小屋まで駆け上がった。
その時、ハリーは見た。レールガンの先が車に向けられているのを。
ハリーは部下に向かって叫んだ。

 ハリー「危ない!! 伏せろ!!」

車に一条の閃光が走る。次の瞬間、爆音とともに炎上する車。恐る恐る振り返ると車は大破していた。
走り去る1台のバイク。犯人だろう。小屋の中はもぬけの殻だった。

 ハリー「やれやれ。」

ホプキンスは自宅に帰って観測を続けた。シャトルが停止したのをネットワークを使って確認した。

ホリデイ達はころ合いを見計らって、エンターサプライズを始動した。

 ジェリー「月へ早く着けますね。」

 マーク「危ない目に逢っておいてよく呑気でいられるもんだ。」

ハリーも手をこまねいているわけではなかった。犯人のバイクはFBIが追跡していた。既に犯人の自宅を突き止めていた。
犯人が油断したところを踏み込むつもりだ。

(第18話に続く)



第18話 NSAだ!!

NSAのハリーもほどなくFBIに追い付いて、踏み込みに参加することになった。

 FBI-1「犯人の様子は?」

 FBI-2「一家でTV見てます。3人です。犯人と妻と息子が1人。」

 FBI-1「よし、各員に告ぐ。30秒後に踏み込みだ。」

FBIとともにハリーもドアを蹴破って中に踏み込む。瞬時にしてソファでくつろぐ3人を、拳銃を構えた10数名の
FBI、NSAが取り囲む。
おびえる3人。

 父親「なんなんだ、君たちは。」

 ハリー「NSAのハリーだ。お前には黙秘権がある。人工衛星破壊の容疑で連行する。」

 父親「ま、待ってくれ。私には何のことだか。」

 母親「あ、あなた。」

取り押さえられる父親。

 息子「ま、待ってよ。人工衛星を撃ったのは僕なんだ。」

 父親「ホプキンス、お前、一体何を言っているんだ?」

 ハリー「???」

驚愕のあまり固まるFBIとNSA。

 ハリー「ま、まさか。こんな少年が…。わかった。話は署で聞こう。」

父親とホプキンスは連行された。調べでは確かにホプキンスの単独犯だったが、武器は父親の経営する会社の設備を
使って製造したものであることがわかった。

後の裁判では、製造した武器に関する技術的な調査が何週間にも渡って続けられた。また、高度な技術に感心を持った
企業の調査員や学術関係者が裁判の傍聴に加わっていた。

それはさておき、我らがホリデイ達は…

 ホリデイ「月まで来たのはいいが、エンターサプライズにはシャトルを載せてない。どうしよう。」

どうしよう、ってあんた、艦長でしょ。

 スポット「ポッドで軟着陸しましょう。」

 ホリデイ「1人乗りだ。誰が行く?」

 ジェリー「も、もしかして、私でしょうか?」

 マーク「アシボ(ロボット)を行かせよう!」

 ホリデイ「いいだろう。で、プログラミングはどうする?」

 スポット「フェリックスに遠隔操作してもらいましょう。」

早速フェリックスに連絡を取った。

 フェリックス「ふぁ〜眠いな。こっちは夜中ですよ。人使いが荒いんだからもう。ええっ! エンターサプライズに
  いるんですか? なんでまた。」

 ホリデイ「話は後だ。アシボでCarbon Wingsを修理したいんだ。」

 フェリックス「無理ですよ。リモートコンソールのシミュレータは会社に行かないと。」

 ホリデイ「君の携帯端末で何とかならんか。」

 フェリックス「無理とはいいませんが、操作性が悪過ぎます。そうだ、基本プログラムを組みますから、
  そちらでアレンジしてください。ジェリーにはプログラミング技術も仕込んであるので、彼なら応用プログラムが
  書けるでしょう。」

 ホリデイ「う〜む。効率面でも、その方がいいのかもな。わかった。早速頼む。」

 フェリックス「至急書き上げて転送します。その前にコーヒー1杯飲む時間をください。眠くて。」

フェリックスはジェリーと状況についての打ち合わせをした後、修理シーケンスの基本プログラムを書き上げて、
エンターサプライズのコンピュータに転送した。

 ジェリー「基本プログラムをCarbon Wingsの図面データに合わせてチューニングしました。アシボの制御は
  エンターサプライズのサブプロセッサで行います。」

その時レイチェルからエンターサプライズに直接連絡が入った。

 レイチェル「マーク、ハリーから知らせがあって、犯人が捕まったそうよ。17歳の少年だって。」

 マーク「う〜む。ネコの歳で15歳っていうと、人間の歳では相当のじじいだな、こりゃ。」

 レイチェル「はぁ?」

 マーク「冗談だよ。」

読者にも難解なボケである。

 ジェリー「修理器材の準備と、アシボの修理シミュレーションが完了しました。アシボを起動します。」

アシボは見事なスピードで壊れた太陽電池と補助バッテリーを交換して行く。

 ホリデイ「素晴らしい。このシステムは他にも応用できそうだな。」

人手で作業していたら数時間はかかったであろう作業が、ものの20分で片付いた。

 ホリデイ「分身を作っておこう。」

ホリデイはアシボの修理プログラムを月面のコンピュータ上のメンテナンス用プログラムに書き加えた。
今後は月面のメンテナンスロボットが修理を代行してくれるだろう。

Carbon Wings、即ち月面のファイルサーバは無事に再起動した。しかしながら、溜まっていた何テラバイトもの
膨大なメールが地上のネットワークに流れ込み、さらにパケットのコリジョン(衝突)が輻輳を招いて、地上のいくつもの
データサーバがパンクした。

 ホリデイ「ところで。」

 ジェリー「はい。」

 ホリデイ「シャトルは壊れたままだ。」

 ジェリー「はぁ。」

 ホリデイ「エンターサプライズでは直接地球に帰還できない。そこで、衛星軌道上でしばらくシャトル待ちだ。」

 ジェリー「ええっ!! そんなぁ。」

 マーク「食料庫にはキャットフードもたくさんある。心配するな。」

落ちも付いたところで、エンターサプライズは虹色の帆を張って地球軌道上へと向かうのであった。
(第2部 おしまい。)



あとがき Spce Holiday

スタートレックの縮小版のようなSpace Holiday  1、キャラクターの感情描写をメインにしたSpace Hpliday 2、
そして近未来にかかわるキーワードを並べ立てたSpace Holiday 3。作者としては1がやはりお気に入りです。
もう1度火星旅行に匹敵するネタを見つけてなんとか1のようなお話を、いつか書いてみようと思っています。
では、次回作はいかに…?

 スポット「エンターサプライズ1号から5号までが活躍するってのはいかがでしょう?」

 ホリデイ「ほう、どんなストーリーなんだね?(ちょっと嫌な予感…)」

 スポット「主人公はトレーシー一家で、エンターサプライズ1号は飛行機、2号は輸送機、3号はロケット、4号は
  潜水艇、5号は宇宙ステーションです。」

 ホリデイ「それはサンダーバードだ!!」
 

 スポット「では、気を取り直して、主人公フェリックスは大ドロボウ、フェリックスの彼女はミケ・フジコ、ライバルは
  ホリデイ警部ってのは…」

 ホリデイ「それはルパン…(見てみたい気はするが)」
 

 スポット「それでは、さえない中年サラリーマンが、アマチュアオーケストラで打楽器を担当して、若い女性に恋するが、
  フラれてばかり、というのはどうでしょう?」

 ホリデイ「うん、それにしよう!!」

 nakata「それは俺のことだろうが!!」

 ホリデイ「ワハハ、冗談だよ冗談。でもちょっと面白そう。」
 

 スポット「ではですね…」

 nakata「まだあるんかい!!」

 スポット「太陽風による磁気嵐でエンターサプライズのコンピュータが誤作動します。暴走するエンターサプライズは
  地球軌道を離れて、外宇宙に旅に出るってのは?」

 ホリデイ「いいかも。続けて(なんだ、ボケはないのか)」

 スポット「往復の燃料を一気に使ってしまって、火星に到達します。乗り組み員は火星に降りて、助けが来るまで火星で
  待ちます。」

 ホリデイ「なるほど。火星では何が起きるのかな?」

 スポット「前回Space Holiday 1の時植えた植物でしばらく食いつなごうとするのですが、火星の土壌で育った植物には
  毒性があったりとかで倒れる者も出ます。一方、救助に向かう船にも数々のトラブルが起きて…」

 ホリデイ「その危機を乗り越えて行くわけだな。」

 スポット「そして最後は救助船も難破するのですが、火星でなんとか燃料の製造に成功して、無事帰路につくわけです。」

 ホリデイ「おい、ジェリー、何泣いてるんだ。」

 ジェリー「うう、いいお話ですね。感動しました。ところで、ここでオチまでしゃべってしまったら新作にする価値が…」

 ホリデイ「…」

(新作に続く?)


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