私的好物 [COMICS]

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BANANA FISH

吉田秋生(小学館)

ニューヨークの下町のストリートチルドレンの生き様を描いた傑作。「ストリートチルド
レン」という生き方しか選べずグループのボスとなった「アッシュ」が、日本からやって
来た「英二」と出会い、自分の兄を殺した「BANANA FISH」の謎を一緒に追い
かけて行く中で、人間らしい感情を取り戻す物語である。

こうして書くとよくある話のようであるが、アメリカ政府も巻き込んだ麻薬による陰謀や
ベトナム戦争の話も交えた吉田秋生のストーリーテリングの上手さや、アクションシーン
のリアルな描画が、読み始めた者をラストまでぐいぐい引っ張って行く。

「君は一人じゃない ぼくがそばにいる ぼくの魂はいつも君とともにある。」

英二の手紙の言葉とともに語られる衝撃的で美しいラストシーンでは、誰もが涙を流さず
にはいられないだろう。


行け!稲中卓球部

古谷実(講談社)

この漫画が連載されていたころ、勤めていた会社で仕事に行き詰まっていた。月曜日に掲
載誌が発売されていたので、それを通勤途中で買って読んで会社に行く気になっていたと
言っても大げさじゃないギャグ漫画の傑作。古谷実独特のギャグが冴え渡る。

特に主人公の前野が生み出す数々のシュールな笑いは、朝の通勤電車の中で、何度声を出
して笑いそうになったかわからない。連載後半で息切れしたのか急に終わってしまったが、
今後の新連載も見守りたい漫画家の一人である。


火の鳥

手塚治虫(角川書店、朝日ソノラマ、講談社など)

誰もが知っている手塚治虫のライフワーク。私ごときが手塚治虫を評するのはおこがまし
いが、私的好物のため容赦いただきたい。

手塚治虫は日本が生んだ20世紀最大の物語作家である。その作品は漫画という世界だけ
でなく、あらゆるメディアで表現された創造物を凌駕している。現在でも評価は高いが、
今後ますます上がっていくだろう。

本書は過去から未来へ、未来から過去へ輪廻のようにストーリーを繰り返しながら、生命
の根源を問う物語である。年を重ねて読むごとに、その中から読み取れるものが変化して
いく。これほど読み応えの有る本はない。もし無人島に何か一つだけ持っていく本がある
とすれば、この本以外ありえない。


エリア88

新谷かおる(小学館)

私が高校生の時に夢中になった傭兵の物語。親友に裏切られ中東の小国の傭兵になってし
まった風間真が、ついに復讐を遂げることに成功する。何よりも新谷かおるの描く戦闘機
のかっこ良さに憧れてしまった。

連載初期の頃は松本零士の影響を受けているが、後半は現在の作風に近くなっている。こ
の漫画も数々の泣かせるセリフがかっこいい。人殺しにならざるを得なかった優しさと、
それでも生きるためにやはり人殺しをせざるを得ない人間達。

私は問題の解決方法としての戦争を絶対認めない。だがその狭間におかれ選択を迫られた
人間のドラマは、何かを考えずにはいられない。


アタゴオル

ますむら・ひろし(メディアファクトリー)

怠け猫ヒデヨシとその仲間達が彩るアタゴオルの世界。ますむら・ひろしが描く柔軟な
発想にはとても驚かされる。基本的には時間、金、人間関係に追われる現代社会への批
判を基調としているが、さもすればよくある御伽噺になりかねない物語を味わい深い作
品に仕上げているのは著者の力によるものといえるだろう。

全体的なイメージは宮沢賢治へのオマージュを元にしているが、その独特な世界観は銀
河鉄道の夜を基調にして、著者独特の不思議な明るさとユーモアあふれる読んでいるだ
けで精神が癒される作品になっている。

この作品を読んでいると、どこからか不思議な音楽が聞こえてくるような気がする。そ
れは自分の心の中にある音なのかもしれない。


ドラゴンヘッド

望月峯太郎(講談社)

修学旅行の帰りの新幹線の中で、大災害に出会ってしまった中学生の「テル」と「アコ」。
同じ新幹線で生き残ったのは、三人だけ。しかし「闇」という恐怖に取りつかれた「ノブ
オ」と殺し合いが始まってしまう。

この話の連載が始まったのは、阪神大震災が起こったほんの少し前であった。現実の大地
震で起こった様々な混乱状況が、不思議なほどにオーバーラップしており、この物語を描
いた望月峯太郎の筆致の冴えが素晴らしい。

人間は誰しも心の中に「恐怖」という感情を持っている。それは生きるために必要なもの
だ。しかし「恐怖」は悪意を持った人間に悪用される。デマなどにより煽動され、自分の
恐怖を封じこめるために自分自身が他人の恐怖となるのである。

自分の中の「恐怖」とどのように向き合えるか、それは非常に難しい問題である。しかし
一時的には自分自身をごまかして逃げることができても、最後にはつかまってしまうだろ
う。「恐怖」は自分の中に住んでいるからである。


哭きの竜

能條純一(竹書房)

数々の決め台詞が泣かせるマージャン劇画の傑作。能條純一独特の劇画美が秀逸である。
主人公・竜の「命を刻む」鳴きが周りの人間の人生を変えていく。またその他の登場人物
も圧倒的な存在感を持っている。甲斐、石川の竜をめぐる争い、特に甲斐の最後は見事で
ある。

私と同年代で麻雀をやったことがある人なら、必ず皆読んでそのセリフを卓上で言った事
がことがあるはずだ。「あんた背中が煤けてるぜ。」


1・2の三四郎

小林まこと(講談社)

私が中学生から高校生の頃、読み耽っていた熱血格闘コメディ。プロレスが本当に面白か
った頃の話である。この頃の小林まことのギャグのセンスは抜群で、今読んでも十分面白
い。熱血的な格闘技シーンの合間に挟まれるボケが可笑しくてたまらない。漫画でしか表
現できない独特の笑いの間が素晴らしい。

昔のプロレスは本当に良かったと思う。K1とかPRIDEとかも嫌いじゃないけど、同
じ脚本があるにしてもショーとしての面白さは、昔のプロレスの方が上だったとつくづく
思う。


Copyright © 1999-2002 つり平

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