晴耕雨読 (日々の本読み) 2000年3月

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沈黙の橋 サイレント・ブリッジ
東直己(ハルキ文庫)

お勧め度:

架空の日本を描いたSFハードボイルド。第二次世界大戦末期にソ連が北海道に侵攻して、
日本が北海道とその他の地域で分裂した国家になった世界を描いている。ドイツにおける
ベルリンのように札幌が分割されていて、その中で南北の工作員が暗躍している。そして
北の大物が亡命を打診してきた時、色々なものが動き始める。最後に全てが個人的な復讐
であったことがわかるのだが、作者は人が行動する原動力は公的なものよりも個人的なも
のにあると考えているのだと思う。
(2000.03.30)

「民」食う人々
佐高信(光文社文庫)

お勧め度:

日本の官僚は腐っている。その事を描いた本である。私が思うに官僚政治の一番悪いとこ
ろは、自らの過ちを認めないところである。そして自らの権益を守る事に固守する点であ
る。確かに敗戦後に日本が世界に誇るべき繁栄を遂げる事が出来たのは、この官僚政治に
よるものと考えても良いだろう。先ほど上げた欠点が、常に成長が期待される状況の時に
は、驚くべき効率を発揮して全体を推し進めるのである。しかし現在の世界の状況は変わ
ってしまった。やり方を変えなければならない時が来ているのである。そんな時代におい
て官僚政治が日本の改革を邪魔している。今まで政治は三流、経済は一流といわれてきた
が、このままでは日本が経済的にも三流国になるのは、そんなに遠い日ではないだろう。
(2000.03.27)

言壷
神林長平(中公文庫)

お勧め度:

神林長平が言葉について書いたSF連作集。彼の作品らしくハードなSF。読みなれない
人は受け付けないだろう。しかしぐっと我慢して読めば面白さが見えてくるだろう。しか
し、たまに読むのは良いがいつも読んでいると頭が混乱してくるだろう。
(2000.03.22)

極道ソクラテス
小川竜生(光文社文庫)

お勧め度:

罪の無いピカレスクロマン。気分がすぐれない時に読むと最適。人情、笑い、少しのエロ、
最低限の暴力。浪花節のフリーのヤクザが貧乏人をいじめるヤクザと闘う。良くある話だ
が、良くある話を面白く書くには技量が必要である。この作者の他の本を読んでみたい。
(2000.03.19)

グイン・サーガ71 嵐のルノリア
栗本薫(ハヤカワ文庫JA)

お勧め度:

ついにアルド・ナリスが決起。これからパロは混乱状態に陥っていくのだろう。敵も正体
をあらわし、いよいよ大詰めである。と書いてもシリーズ物なので読んでない人には何の
事か全くわからないであろう。
(2000.03.17)

すべてはFになる
森博嗣(講談社文庫)

お勧め度:

理科系の本格推理物。なかなか無理無く話がまとめられていて、本格推理に有りがちな突
拍子も無いストーリーの展開がない。仕事柄、推理のトリックには途中で気が付いてしま
ったが。ただ母親と娘の死体を間違うのは、いくらなんでも無理があるだろう。医者も警
察もいて、28歳と14歳の死後2、3日の死体を間違う訳がないだろう。そこさえちゃ
んと書けばもっと良い作品になったと思われる。
(2000.03.16)

龍は眠る
宮部みゆき(新潮文庫)

お勧め度:

前に綾辻行人との対談でデッドゾーンを想像させると書かれていた。デッドゾーンほどの
出来ではないが、なかなか良く書けている。特にサイキック(超能力者)の苦しみと悲し
みが良くあらわされている。しかしながら取り上げられている事件が、少し平凡という感
じがする。もう少し娯楽性が高ければもっと面白い作品になっただろう。
(2000.03.11)

二十世紀を読む
丸谷才一 山崎正和(中公文庫)

お勧め度:

丸谷才一と山崎正和が二十世紀に出版された本について論評することで、二十世紀を色々
解説している。これを読むとこうして戦後の日本の思想という物が間違った方向に行って
しまったんだなと感じる本。勿論、なるほどと思わせるところも有るが、大体は自分の論
点に都合の良い事柄だけを取り上げて、人の揚げ足を取っているだけである。
(2000.03.7)

新・天狼星ヴァンパイア(上下)
栗本薫(講談社文庫)

お勧め度:

名探偵・伊集院大介の新シリーズ。死んだかと思われていたシリウスが再び登場する。し
かしこの作品では単なる脇役で、今後のシリーズで活躍するようだ。さて内容的には続き
の部分があるため、前作を読んでいないとついて行けない所があるが、やはり作者は物語
を作りあげるのが上手い。まさに現代の語り部である。
(2000.03.5)

魯山人味道
北王子魯山人(中公文庫)

お勧め度:

魯山人が色々書き残した文章を、愛弟子平野雅章がまとめた物。さすが魯山人先生、こだ
わりが違う。しかし書いてある事を実現しようとすると無茶苦茶金がかかりそうである。
私も美食の道を極めるために日々美味いものを求めているが、魯山人先生の域まで到達す
るにはまだまだである。
(2000.03.2)

Copyright © 1999-2000 つり平

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