晴耕雨読 (日々の本読み) 2000年6月

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天敵
小川竜生(光文社文庫)

お勧め度:

企業ハードボイルドという事で、窓際族の男が活躍する。読んでいる時は面白いのだが、
ストーリー展開にあまり現実味が無くてちょっと興醒めする。まあ通勤電車の中で読むの
にちょうどいいだろう。しかし性格的に嫌らしい人物が出てくると何故大阪弁なのだろう。
(2000.06.28)

眠り姫
ダニエル・キイス(ハヤカワ文庫)

お勧め度:

キイスには珍しく、精神科医が起こした犯罪を突きとめていくミステリー仕立てになって
いる。犯罪の周りの人々の心理を、精神治療を基盤として掘り下げて行く手法はキイスな
らではのものである。長い話であるが、巧みなプロットとストーリー展開で話に引き込ま
れて行き飽きさせる事は無い。物語は衝撃的な結末を迎えるのだが、最後までハラハラし
ながら読む事ができた。
(2000.06.26)

ひまわりの祝祭
藤原伊織(講談社文庫)

お勧め度:

デビュー作「テロリストのパラソル」で乱歩賞、直木賞を受賞した藤原伊織の第2作。前
作からかなり時間が経っているが、期待を裏切らない出来映え。妻が原因不明の自殺をし
た後、仕事を辞めて引きこもり生活を生活をしていた男が、ある事をきっかけに妻の死の
原因を探し始める。そこにある物を求めて暗躍する人々が絡んできて、だんだんと謎が解
けて行く。たんたんと話を進めながら、登場人物の背景を描き、リアルで無理の無いスト
ーリーが展開される。かなり長い話だが最後まで面白く読む事ができた。
(2000.06.22)

冬の稲妻
小川竜生(徳間文庫)

お勧め度:

うーむ。前に読んだ同じ作者のものとは、だいぶ落ちるような気がする。話の展開もいい
し、なかなか渋い男が主人公なのだが、もう一つのめり込めるものが少なかった。
(2000.06.19)

究明
ジェリー・ボイル(講談社文庫)

お勧め度:

「男の生き様とは!?傑作ハードボイルド」というのがカバーの言葉だが、内容はそれほ
どでもない。元新聞記者の物語なのだが、自分の独り善がりで結論を出すところなどが、
まさにマスコミの考え方と言えよう。ただストーリー展開は上手いので今後の作に請う御
期待といったところか。
(2000.06.17)

火車
宮部みゆき(新潮文庫)

お勧め度:

懐かしき社会派推理小説の匂いがする。人の戸籍を盗んだ女を、休職中の刑事が追い詰め
て行く。その背景を探るうちにカードによる自己破産者の悲惨な人生が浮かび上がる。昔
ながらの形式ながらも、そして悲惨な事件を扱いながらも、そこにはあまり暗さは見られ
ない。宮部みゆきが持つポジティブな感性がそれを描き出しているのであろう。

ただ、作中でカードによる破産がその人間の責任だけではなく、社会的な原因もあるとい
う話が出てくる。長時間労働を強いられるトラック運転手が起こす事故と比較して語られ
るのだが、それは詭弁である。脅されて無理やり借金をさせられたのならともかく、自分
の生活を潤すために金を借りた人間にはどんな言い訳も成り立たない。
(2000.06.15)

闇よ、我が手を取りたまえ
デニス・レヘイン(角川文庫)

お勧め度:

前作「スコッチに涙を託して」で活躍したパトリック・ケンジーを再び主役に据えたハー
ドボイルド。酒と女と暴力と銃と、ハードボイルドを構成する要素を全て含んで話は展開
される。長い間、住人が隠し通してきた闇の世界がケンジーを落とし入れようとする。暴
力的な父親の挿話と、ケンジーの暴力的な傾向がさらに混乱を呼ぶ。人は何故暴力を必要
とするのか。自分の心の中の深い闇を考えずにはいられない。
(2000.06.13)

傷だらけの天使
漫画・やまだないと 脚本・西田俊也 原案・市川森一(辰巳出版)

お勧め度:

「ア〜ニキィ〜」。このセリフで思い出す人は結構いるのではないだろうか。現在、深夜
に再放送をやってるので、見ている人もいるだろう。ショーケン演じる修と水谷豊の亨が
繰り広げる馬鹿でどじで義理堅く人情味ある男達の物語。彼らは不器用であったけど、カ
ッコ良かった。自らの不運を言い訳しなかった。最近のドラマの登場人物のようには。ト
ラウマを描くのはいいけれど、それが犯罪を犯す理由にはならない。人生に言い訳はいら
ない。過程と結果があるだけだ。その中でどれだけ自分自身に嘘をつかないで生きる事が
できるかが大切ではないのだろうか。
(2000.06.10)

辺境・近境
村上春樹(新潮文庫)

お勧め度:

村上春樹がハンプトン、無人島、メキシコ、讃岐、ノモンハン、アメリカ横断、神戸と様
々なところを旅して書き綴ったエッセイ。旅する場所により沸いてくる色んな感情をたん
たんと述べている。特に最後の著者自身も高校まで住んでいた神戸を歩いている。阪神大
震災により破壊された故郷と、自分が青春時代を過ごした故郷を心の中で比べてしまい、
複雑な思いをよりたんたんと描いている。それがより一層作者の思いをよく表している。
(2000.06.6)

地下街の雨
宮部みゆき(集英社文庫)

お勧め度:

宮部みゆきの短編集。ミステリアスでちょっと不思議な感覚を味わう事ができる。一つ一
つの話が丁寧に書かれていて好感が持てる。特に「さよなら、キリハラさん」は読んだ後
に色々な思いが込み上げてくる。
(2000.06.3)

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