晴耕雨読 (日々の本読み) 2000年7月

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とり残されて
宮部みゆき(文春文庫)

お勧め度:

宮部みゆきの佳作短編集。長編よりもストーリーが引き締まった印象を受ける。全編がオ
カルトというか、ミステリーというか不思議な感覚の物語。いつもどおり流れるようなス
トーリーテリングと巧みな伏線、そして練りこまれた舞台背景。何よりも作者の持つポジ
ティブな明るさが、この作品を鮮やかに浮き上がらせている。
(2000.07.28)

流れ星の冬
大沢在昌(双葉文庫)

お勧め度:

昔、徒党を組んで犯罪を行っていた人間が老境を迎えた時、過去の犯罪の残り香が彼を襲
ってくる。そんな時、男はどのように戦うのか。老犯罪者のハードボイルドである。当然
ながら派手なアクションシーンはないが、自らの死もそう遠くは無い男が静かに戦いを続
けるところに心が動かされる。
(2000.07.24)

オンリー・チャイルド
ジャック・ケッチャム(扶桑社ミステリー)

お勧め度:

幼い頃、虐待を受けた子供が成長してから犯した犯罪を描いた物語。その男と結婚した女
が、自分らの子供が虐待されているのに耐えかねて、男を訴えるが...。司法制度が裁
き切れない犯罪の物語は、まるで悪夢のような結末を迎える。生まれた時から”悪”であ
る人間はいるのだろうか?残念ながらYESとしか答えようがない現実がある。これはそ
んな現実を描いた物語である。当然ながら後味はよくない。
(2000.07.20)

希望への疾走
ジョン・ギルストラップ(新潮文庫)

お勧め度:

冤罪を被せられ逃亡し別人に化けて隠密生活を営むようになった夫婦が、ある事がきっか
けで正体が露見してしまい、再び逃亡を始める事になる。最初はただ逃亡するだけだった
が、自分達の無実を証明しようと調査を進める中で、息子が負傷して入院を余儀なくされ
妻も捕まってしまう。絶望的な状況の中、男は反撃に出る。

いかにもアメリカ的なエンターテイメントであるが、読んでいて人間の負の面に嫌になっ
てしまうような物語が多い中、久々にすかっとする結末で最後まではらはらしながら気持
ち良く読み終える事ができた。いい小説である。
(2000.07.16)

グインサーガ73 地上最大の魔道師
栗本薫(ハヤカワ文庫JA)

お勧め度:

いよいよ《大導師》アグリッパが登場するかと思いきや、《闇の司祭》グラチウスとヴァ
レリウスの話で終始いてしまい、次回に持ち越しとなった。この調子でいけば本当に20
0巻までいきそうだ。
(2000.07.12)

鳩笛草 燔祭/朽ちてゆくまで
宮部みゆき(光文社文庫)

お勧め度:

超能力を持つ女性が主人公の3編の短編集。それぞれに色々な能力を持っているが、超能力を持つが
故の苦悩や試練に晒される。その時の心の動きが良く描けている。初期の頃のキング(キャリー、フ
ァイヤースターター等)に良く似た感じの作品があるが、宮部みゆきも勝らずとも劣らず短編ながら
中身の濃い作品に仕上がっている。
(2000.07.9)

シビュラの目
フィリップ・K・ディック(ハヤカワ文庫SF)

お勧め度:

久々にディックの新刊が出ていたので読んだ。幻視者ディックらしい作品集。コンピュー
ターの大統領に待機メンバーいる設定や、未来を変えることができる歌を歌う男の話。死
んだ後も半生期という期間が続き、好きなタイミングで余命を使用できる話など、様々な
奇妙な設定が溢れている。ま人物像の描き方やセリフも素晴らしい。
(2000.07.5)

Copyright © 1999-2000 つり平

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