血の痕跡スティーブン・グリーンリーフ(ハヤカワ・ミステリ文庫)
お勧め度:★★★☆☆ 殺されたかも知れない友人の敵を討つために立ち上がった私立探偵の物語。丹念に人物と ストーリーが書き込まれているが、もう一つぐっと来るものが足りないような気がする。 (1999.10.31)
ぼくが電話をかけている場所レイモンド・カーヴァー(中公文庫)
お勧め度:★★★☆☆ この短編集に出てくる主人公は全て孤独な人間ばかりである。その孤独さ故に人とぶつか り合う様が良く描けている。かといって決して書き込み過ぎている訳ではなく、淡々とし た乾いた文章である。読んだ後に余韻が残り、そして考えさせられる。 (1999.10.28)
スティックエルモア・レナード(文春文庫)
お勧め度:★★★★☆ この間、家の近くに古本屋が出来たので、買い物のついでに行ってみたら、長年探してい た本書を見つける事が出来た。古本屋にはこういった楽しみがある。 さてこの作品の主人公は「スワッグ」でも出てきたスティックの物語である。いつものよ うに洗練された会話と綿密に描かれた人物、抑えられた表現、素晴らしいの一言である。 (1999.10.27)
24人のビリー・ミリガンダニエル・キイス(早川書房)
お勧め度:★★★★☆ 日本で翻訳された当時「多重人格ブーム」を巻き起こした連続強姦犯ビリー・ミリガンの ノンフィクション。この度、早川書房からダニエル・キイスの本がまとめて文庫化された 事もあり久々に再読した。 この本でも作者ダニエル・キイスの社会的弱者に対する暖かい目線が感じられる。また作 者自身の感情を抑えて書いているところにも好感が持てる。ただ私自身の意見を述べると 多重人格という精神病が存在する事は理解するが、精神病を抱えた人が犯罪を犯した場合 に責任能力が無いからといって無罪になる事は間違っていると考えている。 (1999.10.24)
レキシントンの幽霊村上春樹(文春文庫)
お勧め度:★★★★☆ 静かで深い深海にいるような感じになる短編集である。特に「沈黙」という作品がとても いい味わいを醸し出している。読んだ後に深く考えさせられる。 他にも「トニー滝谷」や「七番目の男」、そして表題作である「レキシントンの幽霊」も じんわりとした良い読後感がある作品である。 (1999.10.21)
心臓を貫かれてマイケル・ギルモア(文春文庫)
お勧め度:★★★★★ 1977年にアメリカのユタ州で殺人犯として銃殺により処刑されたゲイリー・ギルモア とその家族のノン・フィクション。作者は彼の弟である。読んだ後に心にの中に重いもの がずしりと残る。人間の業の深さと愛の深さが胸に染みる。 処刑されたゲイリーは少年期に父親から激しい虐待を受けた結果、世の中の権力に対して 尽く反抗するようになる。その怒りは自分自身を殺すことしか解決できないことに気がつ いたゲイリーは自ら銃殺される事を望み、その通りになる。 子供に対する暴力は現在でも大きな問題である。この本のゲイリーは、人間は謂れのない 暴力を受けると精神が破壊されてしまうという実例である。勿論、そのような環境の中で も立派な人間に育つ例もあるが、だからといって暴力が許されるわけではない。 この作品は全ての人に是非読んでいただきたい。 (1999.10.20)
ダーティペア FLASH 3 天使の悪戯高千穂遥(ハヤカワ文庫JA)
お勧め度:★★★☆☆ 新ダーティペア・シリーズの第3巻。今回もますます快調にええかげんな話が展開される。 しかし今更ながら気が付いたのだが、本の題名と中身は全く関係が無い。 (1999.10.18)
ストリート・キッドドン・ウィンズロウ(創元推理文庫)
お勧め度:★★★☆☆ 情感溢れるハードボイルド。薬中で娼婦の母親に育てられた少年がある調査組織に入り、 活躍する物語。少年時代の話と現在の話が上手くミックスされている。 プロットの組み立て方は問題無いが、少し冗長過ぎるところがあるのと、プロの探偵の割 には間が抜けている行動をさせているところが、全体の出来がよいだけに惜しい。ただ処 女作と言う事なので致し方がないところだろう。 (1999.10.17)
二十世紀を精神分析する岸田秀(文春文庫)
お勧め度:★★★★☆ 人間は本能が壊れた動物であり、「幻想」や「物語」に従って行動しているにすぎないと いう「史的唯幻論」で一躍有名になった岸田秀の雑文集。色々な雑誌に発表されたコラム やエッセイを集めたもの。 著者自ら記しているように、フロイドの考えをわかりやすく記したものとも言える。最近 の著作らしくオウム真理教について多くのページが割かれている。著者の「史的唯幻論」 で世の中の全ての事柄が解ける訳ではないだろうが、このような考え方があることを知っ ておいてもよいだろう。 (1999.10.12)
明日への契りジョージ・P・ペケレーノス(ハヤカワ・ミステリ文庫)
お勧め度:★★★★★ ペケレーノスのハードボイルド。「愚か者の誇り」のピート・カラスの息子のディミトリ ・カラスとマーカス・クレイが活躍する。”パルプ・フィクション”ばりに重要なシーン が色々な視点から繰り返されて描かれていて、それが各場面を印象的にまた効果的に浮き 上がらせている。 相変わらず登場人物、舞台背景、プロットが綿密にかつ情緒豊かに書かれていて、上質の ハード・ボイルドに仕上がっている。秋の夜長にバーボンでも飲みながら読むと心に深く 悲しみが染み渡ってくる。 (1999.10.08)
眼球綺譚綾辻行人(集英社文庫)
お勧め度:★★★★☆ ホラー短編集。とても面白いが、とても怖い。作者である綾辻行人は、新本格派として持 ち上げられたが、長い間書けずに苦しんでいたようだ。が、ようやく気持ちが前向きに向 いたようで一安心した。 とても面白い作品だが、気持ち悪いシーンが山盛りになっているので、そういうのが弱い 人は止めた方がよさそう。私も読んでる途中で体がむず痒くなった話があった。 (1999.10.05)
ダーティペア FLASH 2 天使の微笑み高千穂遥(ハヤカワ文庫JA)
お勧め度:★★★☆☆ 新ダーティペア・シリーズの第2巻。前巻から引き続き、異時空の精神生命体ソラートと の戦いが続く。新登場者も加えてハチャメチャ・スペースオペラが展開される。 (1999.10.03)
ザ・スコット・フィッツジェラルド・ブック村上春樹(中公文庫)
お勧め度:★★★☆☆ 村上春樹の手によるフィッツジェラルド・エッセイ。著者がフィッツジェラルドの故郷や ゆかりの地を訪ね歩いた感想とフィッツジェラルドとその妻ゼルダのの生き方について評 している。久しぶりに「グレート・ギャツビー」を読みたくなった。 (1999.10.02)