晴耕雨読 (日々の本読み) 1999年11月

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さよならジュピター
小松左京(ハルキ文庫)

お勧め度:

昔々に読んだ事があるが、あらたに文庫化されていて再読した。一言で言うと面白い。昔
のSFはこれほど面白い作品であったのだ。20年以上前の作品であるし、理論的にも怪
しいところもあり、登場人物がステレオタイプであるし、ご都合主義なところも見受けら
れる。しかしそれでもこの作品は面白い。それは小松左京が描き出した物語の力である。
現在の小説(特にSF)が喪ってしまったあつい夢を持っている。勿論、意気込みだけで
は間違った方向に進む事がある。しかしシニカルなだけでは物事は前進しない。
(1999.11.30)

23段階の闇
K・j・a・ウィシュニア(ハヤカワ・ミステリ文庫)

お勧め度:

南米からアメリカに移住した女性巡査が製薬会社の闇に迫って行く。台詞回しやプロット
も中々良く書けているのだが、今一つ読んでいて感じるものが無い。アメリカでも最初は
出版社に政治的過ぎるとか文学的過ぎるとかの理由で拒まれて自費出版したそうだが、単
に面白くないからではなかったのか?海外の作品は出来不出来の差が激しく(翻訳の悪い
例もあるが)、心が震えるような作品に出会ったかと思うと、本当にこんな本が売れたの
かと思うような作品を読まされるときがある。
(1999.11.26)

追跡者の血統
大沢在昌(角川文庫)

お勧め度:

「雪蛍」で活躍する探偵・佐久間公の若き頃の物語。一人称の呼び方も口調もそれなりの
ものになっている。またストーリーの進み方に多少強引なところも見られるが、これもま
た読ませるものになっている。ひとえに大沢在昌のストーリーテリングの妙であろう。
(1999.11.26)

カリブの鎮魂歌
ブリジット・オベール(ハヤカワ・ミステリ文庫)

お勧め度:

カリブ海島で探偵を営むダグに美人モデルから父親探しが持ち込まれる。調査を続ける内
に過去に起こった殺人事件も絡んで物語は急展開する。登場人物は端役まできちんと描か
れているし、プロットも丁寧に作られているが、最後が少しいただけない。登場人物がほ
とんど死んでしまうという解決方法はどうなんだろうか?
(1999.11.23)

ラブラバ
エルモア・レナード(ハヤカワ文庫)

お勧め度:

元シークレット・サービスの映画好きの写真家が、あるきっかけで昔に憧れていた女優に
出会う。そこへキューバの監獄から逃げ出した男と故郷で親戚を売った男が絡んできて、
話は二転三転する。

レナードの映画好きは良く知られているが、この作品も映画のシナリオ風に仕上げられて
いる。またこの作品はフィルム・ノワールへのオマージュとして書かれている。しかしな
がら単なるオマージュに留まらず、レナード独特のセリフ回しがいかしている。
(1999.11.19)

殺し屋マックスと向う見ず野郎
テリー・ホワイト(文春文庫)

お勧め度:

引退した殺し屋に持ちこまれた最後の大仕事。そこに絡んでくる売り出し中のチンピラ。
背後には何かを企むボス達。そしてこれも引退間際の老刑事。役者が揃った所で舞台の幕
が上がった。共に引退間近で自分の人生が終わりに差しかかっている男達の気持ちが良く
描かれている。
(1999.11.15)

不夜城
馳星周(角川文庫)

お勧め度:

前から一度は読もうと思っていた作品。新宿での中国系マフィアの争いを描いたハードボ
イルドである。暗い影を背負った男と女、銃とクスリ、裏切りと愛。ハードボイルドを構
成する要素を全て含んでいる。しかしプロットが少しいただけない。まあデビュー作であ
るから仕方がない。この作品は作者が愛するエルロイへのオマージュだろうが、エルロイ
ほど殺伐とはしていないのが救いである。
(1999.11.14)

グイン・サーガ68 豹頭将軍の帰還
栗本薫(ハヤカワ文庫)

お勧め度:

ついにグインがサイロンに帰還した。しかし主人公が20巻以上も本編に出てこない作品
も珍しいだろう。といっても今まで読んでいない人には、なんのこっちゃわからないと思
われるので、読み続けている人のみお勧め。
(1999.11.12)

バビロンに帰る ザ・スコット・フィッツジェラルド・ブック2
スコット・フィッツジェラルド(中公文庫)

お勧め度:

フィッツジェラルドの短編集。それぞれに味があるが出来不出来の差も激しい。また当時
の風俗を描いているだけに、現在では既に時代遅れになった感もある。が、それでも良い
作品は良く書きこまれている。
(1999.11.11)

五万二千ドルの罠
エルモア・レナード(ハヤカワ・ミステリ文庫)

お勧め度:

罠に嵌まった男がそのピンチを切り抜けるために、孤軍奮闘する。いつものように圧倒的
なリアリズムが作品中に貫かれている。そしてシンプルでユーモア溢れる会話。しかし翻
訳がいまいちなのか、レナード作品にしてはもう一つ。
(1999.11.09)

ビリー・ミリガンと23の棺
ダニエル・キイス(早川書房)

お勧め度:

「24人のビリー・ミリガン」を読んだついでにこの続編も読み返してみた。主人公ビリ
ー・ミリガンは3件の強姦事件をおこした犯人であるが、多重人格という精神病を病んで
おり、そのために精神病治療施設に入れられる事になる。この辺りの経緯は前作に書かれ
ていたが、この作品では前作では書けなかった部分が書かれている。

この作品の中ではライマ病院での日々が中心となっている。権力を持つと人間は醜くなる
というが、その典型的な例が描かれている。勿論、彼らにも言い分はあろうが、力を持っ
た側の言い分は所詮言い訳にしか過ぎぬ。
(1999.11.07)

みんな山が大好きだった
山際淳司(中公文庫)

お勧め度:

山際淳司が残した登山家達の物語。何故人は命を賭けて危険な登山に挑むのか?著者は様
々な登山家の死に方を通じて、それを描き出している。己の信じる物に全てを賭けて挑む
男達。

特に単独登攀を行う登山家にスポットが当てられている。その孤独な生き方と壮絶な死に
対して。著者が作品の中で語っている。人は孤立せよと。孤独に耐えよと。孤独は寂しい
と良く言われるがそんなことはない。孤独という生き方を選んだだけである。
(1999.11.03)

Copyright © 1999 つり平

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