長い長い時間が経ちました。 瞬ちゃんは相変わらずたったひとりで、氷河の帰りを待ち続けていました。 けれど、いつまで経っても、氷河は婦ってきてくれません。 それでも、瞬ちゃんにできるのは待つことだけでしたから、瞬ちゃんはひたすら待ち続けました。 ところで、瞬ちゃんは、毎日朝早くから午後3時頃までどんぐりを探しに出掛け、そのあと夜になるまで、氷河と暮していた小屋の前に佇んで氷河を待つのを日課にしていました。 最近、そんな瞬ちゃんを遠くからじっと見詰める青い目があったのです。 夜がきて真っ暗になって瞬ちゃんが小屋の中に入ると、白い影がそろそろと小屋に近付いてきて、窓から中を覗き込みます。 主のいない氷河のベッドの上に丸くなって一人寂しく眠っている瞬ちゃんを、その白い影はいつまでもいつまでもじっと見詰めているのです。 そして、朝が近付き、瞬ちゃんが目を覚ます頃になると、白い影はさっと小屋から離れて森の中に身を隠し、やっぱりじっと瞬ちゃんを見詰め続けているのでした。 瞬ちゃんは、けれど、その白い影に、自分を見詰めている青い瞳に、全然気付いていませんでした。 瞬ちゃんの頭の中はいつも氷河のことでいっぱいで、他のことには頭が回らなかったからです。 瞬ちゃんを見詰めている白い影の正体は、シベリアの森に住む銀色のオオカミさんでした。 偶然ですが、この青い瞳のオオカミさんの名前も『氷河』というのです。 氷河オオカミさんは、他のどんなキツネやオオカミよりも可愛くて、どこか思い詰めたような目をした瞬ちゃんに一目惚れしてしまい、毎日毎日瞬ちゃんを見詰めていたのでした。 そして、氷河オオカミさんはいつも、 (どうしてあのコは、どんぐりを拾いにいく以外、どこかに遊びに行ったりもせず、あの小屋の前でじっとしているんだろう?) と、不思議に思っていたのです。 瞬ちゃんは、いつもとても寂しそうで、ひとりぽっちで、思い詰めた様子で、じっと白い丘の向こうを見詰めています。 そんな瞬ちゃんを見ているうちに、氷河オオカミさんは、 (もしかしたら、あのコは、コイビトが帰ってくるのを待っているのかもしれない……) と、思うようになりました。 それで、氷河オオカミさんは、あんなにも可愛いあのコを、あんなにも寂しそうにさせている“そいつ”が、もし、自分の前に姿を現したなら、その時には思いきり噛みついてやろう──と、心に決めたのでした。 |