「あっ……あっ……あ……ああ……あん、あっ、も……う、ああ……!」 ユーグの激しさに翻弄され続けたシュンは、快感が苦痛になり始めていた。 このままユーグの激しさを受けとめ続けていたら、自分は狂気に陥ると感じていた。 だが、狂いかけている身体と心をどうすればいいのかが、シュンにはわからなかったのだ。 ユーグの律動が激しさを増す。 「はぁ……ああ……あ……っ……ああ……」 シュンの身体はシュンの意思に反して、ユーグの力に狂喜し続けていた。 「ああ……もう……もう、僕……あああ……っ!」 やめてほしいと訴えたつもりだった。 それが言葉になったのかどうかは、シュン自身にもわからなかったが。 「わかっているのか、シュン?」 シュンを貫いている男が、荒い息と共にシュンに告げる。 「今、おまえを抱いている男が誰なのか」 『思い出せ』と、この男は言っている。 苦痛と快楽がせめぎあっている身体に苦しみながら、シュンは必死に思い出そうとした。 本当は誰でもいいと思っていた――ような気がする。 この肉体という牢獄から自分を解放してくれるのなら、それが誰であろうと構わない、と。 誰でもいいのなら兄しかいないと、シュンはずっと思っていたのである。 (ああ……でも……) 「シュン。俺の名を呼んでくれ」 声の主に突きあげられるたび、身体の奥がしびれる。魂までもが揺さぶられる。 そして、シュンは、ふっと、自分を死から引き戻した金髪の騎士の青い瞳を思い出した。 「ユーグ……ド・モンフォ――」 名前がどういう意味を持つのだろう。 それも、今のシュンにはわからなかった。 ただ、思い出しさえすれば、この男が自分を助けてくれるのだと信じて、シュンはその名を呼んだ。 「ユーグ――ユーグ……あっ……ユーグ……ああん……っ!」 その名を口にした途端、男の動きが激しくなった。 これまでよりもずっと強く深く激しい嵐がシュンを翻弄し始める。 (名前を呼べば……この狂気から抜け出させてくれるんだと思ったのに……) 泣きたい気分になり、実際にシュンは涙を零した。 もうどうなってもよかった。 この歓喜の中で狂いながら死んでしまえるのなら、これ以上の幸福もないではないか。 「あっ……あっ……は……ああ、いい……あっ、いや……いい……ああ……」 シュンの身体を侵していくユーグの動きは、大きく強く速く激しく深くなる。 それは、シュンが望んでいたその域より、ずっと深いところにまで達していた。 あまりに深くて、シュンは本当に、自分はこの男に突き殺されるのだと思ったのである。 そして。 シュンがもう喘ぐこともできなくなった頃、シュンを狂わせ続けていた力が、鋭い剣のような残酷さでシュンの身体を真二つに引き裂いた。 「あああああ――っ !! 」 身体の中に残っていた僅かな力のすべてを掻き集めて、シュンは最後の悲鳴を礼拝室に響かせたのである。 その悲鳴が、月の光と十字架しかない礼拝室で尾を引く。 自分の身体の奥深いところに解き放たれたものが、欲なのか、罪なのか、愛なのか、シュンにはわからなかった。 指先と爪先から、肩からも胸からも、髪やユーグに侵されていた場所からも力が脱けていく。 シュンは全ての力をユーグに奪い取られたような気がした。 そして、ユーグの力の全てを自分の内に取り込んだような気もした。 破戒の罪も、神の罰も、今は考えられなかった。 身体の奥に、疼きがまだ残っている。 シュン自身には自分の指の一本を動かす力も残っていないというのに、その部分はユーグの力の名残りに、まだびくびくと震えていた。 シュンを組み敷いていた男の肩が大きく上下している。 自分を見降ろしている男の青い瞳が、幼い頃の自分を見守っていてくれた兄の瞳に酷似しているような錯覚を覚え、シュンは一瞬微笑した。 そして、既に意思を形作る力さえ残っていなかったシュンは、深い夜の闇の淵に誘い込まれるように意識を失った。 |