「情欲果てた俺を殺すことはできないぞ、おまえは」
自然にのけぞっていくシュンの白い喉に唇を這わせ、あるいは、引き戻してその唇を味わいながら、ユーグはまた昨夜と同じように、二人の全てが溶け合うようなシュンとの交わりの悦楽に侵されつつあった。
「は……っ……あっ……」
シュンの声が、豪奢な部屋の緞帳や天蓋布に吸い込まれていく。
「やめ……て……ホロフェルネスの二の舞を演じたくなかったら、やめて……僕は……殺せる……きっと……あっ……ん……」
シュンの精一杯の脅しは、ユーグに激しく突き上げられることで中断させられた。
「おまえにユディットの真似は無理だ」
「な……ぜっ……あっ……あんっ……」
血も出ないような掠り傷に怯え、しかもこんな感じやすい身体で敵将の寝首を掻くことなどできるはずがない。
しかし、さすがにユーグはそれは口にはしなかった。
そのどちらの理由もシュンには侮辱でしかないだろう。
代わりに、シュンの身体を引き寄せ、更に突き上げて、
「おまえが失神するまで、俺はおまえを解放しないからな」
と、シュンの耳許に唇を近付けて告げる。
「そ……んな……ああ……!」
ユーグの言葉より、ユーグの吐息に、シュンは激しく身悶えた。
シュンの身体は溶けだして、自分の身体にまとわりつく空気の流れにさえ愛撫を感じているような風情である。
仲間の力になるため、この城塞から脱出するためと言いながら、シュンは本当は心の奥底でこうなることを望んでいたのではないか――。
そう疑わずにいられないほどしっかりと、シュンの身体はユーグを捕らえていた。
その指はユーグの髪に絡み、シュンは自分からユーグを捕らえたままでの上下動を繰り返して、ユーグに欲望を吐き出させようと夢中になっている。
ユーグ自身はそんなつもりはなかった。
凌辱も二度に及べば、それはまさに獣欲でしかない――そう思っていた。
だから堪えられるはずだと、堪えなければならないと思っていたのだ。
今夜、この部屋に戻り、シュンの姿を見るまでは。
だが、ユーグ自身も、結局は心のどこかで、こうなることを望んでいたのだったかもしれない。
いずれにせよ、ユーグは――ユーグも――シュンの身体と声に溶かされそうになっていた。
これは戦いの一種なのかもしれない――とも思う。
どちらかがどちらかに取り込まれてしまうのを争うような。
昨夜がそうだったように、その夜、ユーグは勝ちもしなければ負けもしなかった。
シュンが気を失うのと同時に、ユーグの情欲も果てていたから。






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