翌朝、とにもかくにもユーグは、ホロフェルネスの二の舞は演じずに済んだ。
彼が寝台の足元に朝の光を見い出した時、彼のユディットはまだ、彼の隣りで、呼吸をしているのかどうかを疑ってしまいそうなほど深い眠りの中にいたのだ。
その髪は乱れ散らばり、瞼は青みがかり、掛け布の上には、昨日ユーグが調達してきたばかりの絹の服がただの布きれになって打ち捨てられていて、シュンが穏やかな眠りに就いたとはとても思えない光景である。
口付けの跡が幾つも残るシュンの項を視界に入れ、ユーグは深い自己嫌悪に陥った。
本当に、こんなつもりではなかったのである。
ユーグの望みは、シュンに生きていてほしいという、ただそれだけのはずだった。
「……」
愛してほしいとまでは望まない――と言えば、それは明確な嘘になるが、こんな出会いを出会ってしまったのでは、今更そんなことを請われるシュンの方が気の毒というものである。
(やはり手離すしかないか……)
おそらくシュンはもう自らの命を絶とうなどとは考えないだろう。
この城を出るために、か弱い貴族の坊やとも思えぬ手段に出た子供である。
シュンのためを思うなら、城外への脱出を果たさせてやるべきなのだろう。
今のままの状態を続けていたら、シュンの魂は、ユーグに与えられる身体の陶酔に支配されてしまいかねない。
(あるいは俺の方がシュンの奴隷になりさがるか、だな……)
それならそれでも構わない――と思わないでもない。
しかし、そういう事態に甘んじてしまうには、やはりユーグのプライドは高すぎた。
それは、シュンのためにもならないことだろう。
一度ならず二度までもこれほどの歓喜や一体感を味わったあとで、シュンを手離すのはひどく辛いことだった。
だが――。
ユーグは、手の甲でそっとシュンの頬を撫でた。
“愛”は、殊更難しいものではない。
相手の幸福によって自分自身も幸福になるという、ただそれだけのことなのだ。






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