フランスからの留学生である氷河に、一方的に一目惚れされて数ヶ月。
結局のところは自分の希望よりも瞬の意思と名誉を尊重する氷河と、『日本人は結婚するまでは肉体的に一つになることはないのだ』という氷河の誤解に助けられて、それでも瞬は これまでなんとか自らの純潔(?)を守り抜くことができていた。
飽きもせず懲りもせず照れもせず延々続く氷河のアプローチと、日ごとに熱っぽさを増していく氷河の眼差しに負けてしまいそうになる自分を懸命に励ましながら、瞬は必死に毎日を過ごしていたのである。
朝の習慣も、昼休みの恒例も、放課後の慣行も、悲しいことにすっかり身に馴染んでしまい、感情は嫌だと言っても、氷河に逆らうのは得策ではないと囁く理性に従わざるを得ない状況に追い込まれ、最近では瞬は、氷河のキスや軽いスキンシップ程度のことには抵抗を示す気力すら失いかけていた。

瞬がそういう状況に甘んじるようになってしまったのは、何よりもまず、瞬が氷河を嫌いになりきることができず、かつまた、氷河の内に悪意を見い出すことができないという事実のせいだった。
誰よりも瞬のことを思い、瞬の名誉と意思を重んじ、瞬のためになら氷の海にも炎の中にも飛び込もうという覚悟の持ち主を、瞬は 愛されている者の傲慢と残酷さをもって突き放してしまうことができなかったのである。
氷河の求めているものが、瞬の恋人としての地位でなく、兄や友人としての立場だったなら、おそらく瞬は諸手をあげて彼を受け入れていただろう。
何といっても、氷河の誠実、正直、一途さは、疑いようのないものだった。
氷河は、卑怯卑劣を憎み、嘘をつかず、怠けることをしない人間だった。
そんな彼の求めるものが なぜ恋なのか。
それさえなければ、瞬にとって氷河は 最上等最上質な友人の一人だったのだ。

(けど、でも、まあ、氷河がどれほど望んだって、僕と氷河は婚約だの結婚だのはできないんだから、いつかきっと氷河も諦めてくれるよね……)
理性と優しさを総動員して、瞬は氷河の情熱が穏やかな友情に変化する時を待つつもりでいた。
最後にはそこに行き着くしかないのだからと、瞬は、二人の行く末を、ある意味 楽観視していたのである。
ところが。
冬休みも目前に迫ったある日、突然、一つの事件が瞬の許にもたらされた。






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