「氷河、氷河、僕を好き!? ねえ、氷河、僕を好き!?」 瞬がその瞳に悲しみの色をたたえつつ、切羽詰った様子で氷河をそう問い詰めだしたのは、吹く風も暖かい、とある初夏の日の午後だった。 「どうしたんだ、急にそんなことを言いだして。今更確かめるまでもないことだろう、俺がおまえを好きかどうかなんて」 「好きなんだね? 氷河は僕のこと、好きなんだよね?」 「もちろんだ。俺は誰よりも……いや、おまえと比べられるものなど、この世には存在しないな。俺はおまえしか好きじゃない」 いつもなら、そこで、 『そんなこと軽率に言うものじゃないよ、氷河。氷河には僕以外にも大切な仲間や守るべき人がいるでしょう?』 と、瞬のクレームがつくところだったのだが、どういうわけか、今日に限ってはそれがなかった。 今の瞬には、そんなクレームをつけている余裕はなかったのである。 氷河の返事を聞くや否や、瞬は、すがるような眼差しを氷河に向け、苦しげに、切なげに彼に訴えた。 「じゃあ、助けて! 氷河、お願い。僕を助けて! 僕、こんなの耐えられない! このままじゃ死んじゃう……っ!」 「瞬……」 氷河は、瞬のその言葉に目一杯慌ててしまったのである。 氷河は昨夜も――それこそ朝まで――思いっきり瞬を可愛がってやったつもりだった。瞬は満足して――むしろ、過剰に満たされたせいで疲労さえ訴えて眠りに就いた。あれから半日も経っていないというのに、瞬がこれほどの不満を訴えるとは、いったいどうしたことだろう? 自分の努力が足りなかったのか、あるいは―― (良すぎて、もっと欲しくなったのか…?) とまあ、一人で悦に入るのは、氷河の勝手である。 いずれにしても、瞬の切望は、氷河にとっても望むところではあったので、彼はそっと瞬の肩を抱き寄せて、その耳元に囁いた。 「欲しいなら欲しいと最初から言えばいい。俺がおまえを好きかどうかなんてわかりきったことを確める必要はない。俺はおまえのためなら何でもしてやるからな、瞬」 「氷河……!」 氷河の言葉に感動したのか、瞬の瞳には涙さえにじんでいる。 それほど瞬は俺を求めていたのか――と、考えるだけなら、これまた氷河の勝手ではあるが。 「じゃ、俺の部屋に行くか」 で、氷河は早速自分の部屋でコトに取り掛かかろうとしたのだが、瞬の返事は意外なものだった。 「氷河ったら、氷河の部屋に行ってどうするの。ラウンジに来てよ」 「なに!?」 瞬の大胆極まりない提案に、氷河は再び目一杯慌てることになった。 昼日中から、突然誰が入ってくるかもしれないラウンジで、瞬はコトに及ぼうと言うのだろうか。 「おい、瞬。いくら何でもそれは……」 氷河が少々躊躇の色を見せると、瞬がまたお得意のすがるような眼差しで、氷河を切なげに見あげる。 「そんな……氷河、僕を好きだって言ったじゃない。僕のためなら何でもしてくれる…って……。それなのに……」 瞬に目の前で泣かれてしまっては、氷河はもうお手上げである。 『瞬のためなら何でもする』――その気持ちに些かの嘘も誇張もなかった氷河は、覚悟を決めて(?)瞬の手を取った。 「どんなことでもするぞ、俺は、おまえのためなら。俺はおまえには嘘は言わん」 「氷河……!」 そして、再び、愛と感動の見詰め合いシーン……。 ……は、わずか2秒で終わった。 瞬が、せかせかした様子で氷河の手を引っ張る。 「早く、早く! ちょうど今、ラウンジに沙織さんが来てるんだ!」 「へ……?」 「氷河も、沙織さん説得に協力してよ。今、星矢たちが頑張ってるから!」 「おい、瞬。ちょっと待て! 沙織さん!? 星矢だと!?」 いつ誰が入ってくるかわからないスリルを感じながらの××――くらいならともかく、最初から見物人のいるところでの××――を、瞬が求めることは、天地が引っくり返ってもあり得ない。 瞬との××がいつまで経っても新鮮なのは、瞬がその羞恥心を決して手放そうとしないからだということを、氷河は知っていた。 ――というわけで。 氷河は、瞬の求めているものが恋人との××ではなかったことにやっと気付き、少々の――もとい、かーなーりーの――落胆と共に、星矢たちが待つというラウンジへと引っ張られていくことになったのだった。 |