氷河 in cookhouse


〜たれたれぱんださんに捧ぐ〜







ある火曜日の朝。

氷河は、とてつもない違和感に襲われて目を覚ました。
とてつもない違和感――それは、彼の隣りに誰も眠っていないという異常事態によってもたらされたものだった。

「瞬っ!?」

毎朝彼の横で元気いっぱい爽やかに目覚め、『氷河、朝だから起きて』と優し〜く目覚まし時計の代わりをしてくれる瞬の姿が影も形もないのである。
これが異常でなかったら、この世に“異常”という言葉の存在する意味はない。
天地開闢以来の大椿事に、氷河は慌てふためいてベッドから飛び起きた。

途端に、彼の聴覚を刺激し始めた訳のわからない音。

それは、『ちゃらっちゃちゃちゃちゃ ちゃらっちゃちゃちゃちゃ ちゃらっちゃらちゃらちゃらちゃらんらんらん♪』という、単純和音の“おもちゃの兵隊のマーチ”別名“キューピー3分クッキングのテーマ”だった。

音のしたナイトテーブルの上に視線を向けると、そこには見慣れない携帯電話が1個置かれている。
どうやら、“キューピー3分クッキングのテーマ”は、その電話のメール着信音だったらしい。氷河が嫌〜な予感に苛まれつつ、その着信メールの内容を確認すると、嫌な予感は、即座に嫌な現実へと様変わりした。


そのメール曰く、
『アンドロメダは預かった。返して欲しくば、ただちに聖域に来い』

送信者アドレスは、gold@sanctuary.com。


つまりはそういうことである。
瞬は黄金聖闘士の誰かに拉致されてしまったのだ。


何故、何のために?
――などと考えている暇は、氷河にはなかった。
誘拐犯にさらわれた時、瞬がちゃんと衣服を身に着けていたのかどうかがひどく気がかりだったが、今になってそれを思い煩っても詮無いことである。



ともかく、愛する瞬をこの手に取り返さなければならない。

その思いだけを胸に、氷河は一路ギリシャ・サンクチュアリへと向かうことになったのである。






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