そして、最後の双魚宮。
守護するは、ピスケスのアフロディーテ。

はっきり言って、氷河のいちばん嫌いな黄金聖闘士が彼だった。
天と地のはざまにバカさを誇る愚の戦士、バカなだけなら許しもするが、瞬をいじめた大悪党。存在自体が大間違い、とっとと因果地平の彼方に飛んでいけー! な男である。

だいたい、この男は、聖闘士の中でいちばん美しいとか何とか言われて悦に入っているらしいが、美の基準は人それぞれだということがわかっていないバカ野郎など、まともに相手をする気も起きない。

氷河は、かーなーりー投げやりな動作で、バラの花びらをてんこ盛りにした皿を彼の前に突きつけた。

「何の真似だ?」

バカな男の質問に真面目に答えるつもりはない。
氷河は、内心この男を思い切り嘲りながら、言葉だけは殊勝のポーズを崩さなかった。

「すまんが、これしか思いつかなかった。貴様ほど美しい男が(瞬の方がずっと可愛いが)まさか、物を食うなどありえんからな」
「貴様、勝負を捨てたのか?」
「物を食うということは、すなわち、ト○レに行くということだろう。まさか、それはありえん話だ。貴様ほど美しい(どこがだ)男が」
(ちなみにカッコの中は氷河の心の呟きです)

「美形というものは、ベルばらのオスカルの時代から、バラの花びらを食べて生きているというのが定説だ。よもや、まさか、貴様ほど美しい男がメシを食うなどありえん話だ」

アフロディーテは、氷河のその言葉に虚を突かれた格好で、一瞬声を詰まらせた。
が、すぐに、彼は、“まさにバカ”としか言いようのない答えを、氷河に返してきたのである。

すなわち、
「そ…その通り。よくわかっているな」
――である。

それから、彼は、皿に盛られたバラの花びらを食べて、世にも美しく言い放った。

「食べ慣れているものは、やはり美味い」


氷河は、もちろん、バカの答えを待つなどという時間の無駄使いはせずに、その時にはもう、教皇の間へと向かっていた。







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