――しかし、事は料理、である。 氷河の頭の中では、それは男のする仕事ではなかった。 というより、氷河は、それを、自分のすべき仕事ではないと思っていた。 料理というものは、自分の作った作品を、自分以外の人間に、にこやかに微笑んで『さあ、どうぞ召し上がれ』と言うことのできる人間だけに与えられた特権だと、氷河は認識していたのである。 氷河に、それは無理だった。 だが。 氷河の傷を癒し終えた瞬の眼差しは、 『氷河はお料理なんかできなくてもいいんだよ』 と、優しく告げている。 その眼差しに甘えることができたなら、どれほど楽だろうと氷河は思った。 だが。 ここで、瞬のその眼差しに甘えてしまったら、自分という人間が瞬の前に存在することの意味が失われてしまう――と、氷河は思ったのである。 氷河は、自分が人間的にあまり出来の良い作品ではないということを承知していた。 一般的に価値があると思われている善良さも、寛大さも、誠実さも、包容力も、自分には備わっていない――と。 つまり、それは、瞬とは正反対の人間だということになる。 そんな自分が瞬を自分のものにし、なおかつ、引け目も罪悪感も感じずにいられるのは、自分が、瞬の持っていない“欠点で”瞬を守ることができていると思えているからだった。 瞬が自分を頼り、必要としてくれていると思えているからだった。 これには、瞬が、自分にできることは他の誰にでもできることなのだと思い込んでいることが、氷河に幸いしていたのだが、だからこそ。 だからこそ、瞬に欠けている能力は全て自分が補ってやらなければならないのだと、氷河は感じていたのである。 故に、氷河は考えた。必死になって考えた。 氷河にとって、これは――自分に料理ができるかどうかということは――自分が瞬の恋人でいられるかどうか、いていいのかどうかを決定する大問題ではあったのだ。 そうして、彼が見付け出した最悪事態の回避方法。 それは――。 |