獣は瞬を見ていたがったが、自分から言葉を発することはほとんどなかった。
そのせいで、元は人間だったという彼が獣になった訳を聞き出すのに、瞬は二ヶ月以上の時間を要した。
自身のことを語りたがらない彼から、ちょっとしたことを少しずつ聞き出して、その答えをつなぎ合わせ、瞬は、瞬なりの答えを得たのである。

獣は、つまり、人間の醜さにうんざりし、人間というものに嫌気がさして、自ら獣になることを望んだものらしい。
そして、彼がその望みを実行に移すことができたのは、彼が孤独だったから。

否、むしろ、彼が獣になった本当の理由は“孤独”の方だったのかもしれない。
獣の心は孤独に苛まれることもないだろう――と、彼は思ったのかもしれなかった。


『獣になって、人間の醜悪さは我慢できるようになったな。人間とはそういうものなのだと思ってしまえるようになった。自分はそんな醜いものとは違う存在なのだと思えるようになったからなのかもしれないから』

瞬にそう告げる獣は、しかし、獣の姿になっても、己れの孤独に無感覚になることはできなかったらしい。
獣の心を持つようになっても、彼の孤独が癒されることはなかったのだ。


獣が、さしたる用事もないのに、足しげく瞬の許を訪れることからも、それは明らかだった。






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