さて。 そういうわけで、愛する人と身も心も一つになれたシュン王子。 しかし、その夜から、シュン王子の塗炭の苦しみは始まりました。 身も心も繋がっているわけですから、もう繋がる必要はありません。 でも、とても素敵なあの行為ができなくなったことがシュン王子を苦しめることになったわけではありません。シュン王子はそれはもちろん、あの素敵な行為は大好きでしたが、既に一つになっているのなら、それはしなくても平気だったのです。 そうではなくて。 シュン王子の苦しみは、自分と一つになってしまったヒョーガの考えていることがすっかりわかるようになってしまったことでした。 それまでは、シュン王子が恐がると思って、恥ずかしがると思って、そして、もしかしたら、そんなことをしてシュン王子に嫌われることになりでもしたらと心配して、ヒョーガがしないでいたこと――したいと思っていても、しないでいたこと――が、シュン王子に筒抜け状態になってしまったのです。 「い…いや! ヒョーガ、そんなこと……そんなこと、考えないで…!」 もう、ヒョーガの考えていることといったら、シュン王子がこれまで想像したこともないほどものすごいことばかり。あーんなやり方とか、こーんなやり方とか、○○を△△したり、□□を××させたり、とてもネットの表ページでは書き表せないようなことばかりなのです。 シュン王子ははっきり言って、とてつもなく淫らに脳を犯されているようなものでした。 『すまん。考えないようにしたいんだが、駄目だ、止まらない。シュン、許してくれ…!』 シュン王子は恥ずかしくて恥ずかしくてどうしようもありませんでした。 でも、それは、ヒョーガの考えていることがものすごいから――ではなかったのです。 これまで、はしたないとか、品がないとか、淫らだとヒョーガに思われたり驚かせたりするのを恐れて我慢していたこと――ヒョーガに□□されたら○○したかったとか、ヒョーガの▼▼を本当は××してみたいと思っていたこととか、そんなことを全部――ヒョーガに知られてしまったことが、シュン王子は恥ずかしくてたまらなかったのでした。 だというのに、ヒョーガが考えていることといったら、シュン王子の考えていたささやかな希望とは段違いにとんでもないのです。 そのとんでもないことをされている自分を想像し、想像の中の自分が嫌がるどころか歓んでしまっていることまで、ヒョーガに筒抜けになるのです。 シュン王子は恥ずかしさのあまり、ベッドに突っ伏して泣き出してしまいました。 けれど、そうなったらそうなったで、ヒョーガは泣き崩れているシュン王子をあーしたいとかこーしたいとかよからぬことを考え始め、シュン王子はシュン王子でヒョーガにそうされることを嫌がっていない自分をヒョーガに知られることになり、身の置き所もないほど恥ずかしくなって――。 ――堂々巡りです。 昼間はそれほどでもないのですが、(時々、ヒョーガの考えることで赤面させられるようなことはありましたが)、夜になって、一人で(実は二人で)ベッドに入るともう駄目です。 悲しいのか嬉しいのか、泣いているのか歓んでいるのか、もう十分なのか物足りないのか、自分でも全くわからない状態で、シュン王子は、頭の中も身体も滅茶苦茶になってしまうのでした。 ほとんど眠れないままで朝を迎える頃には、それこそ、二人が別々の存在だった時、一晩に○回という新記録を作った日の100倍も疲れきっているようなありさま。 まるで一晩に(○×100)回もした後のようなのです。 生きているのが不思議なくらいに、心も身体も疲れきっていて――いえ、ほとんど壊れていると言った方がいいような状態なのです。 それなのに――それなのに、ヒョーガもシュン王子も、どうしてもどうしても考えることをやめることができないのでした。 そんな夜を7つほど過ごしたでしょうか。 シュン王子は憔悴しきって、ついにベッドから起き上がることができなくなってしまいました。 愛する人と身も心も一つになる――以前はこの上ない幸福だろうと思っていたことが、こんな苦しみを――苦しみと快楽を――もたらすものだったとは、シュン王子は思ってもいませんでした。 互いに考えていることがすべてわかれば人と人は理解し合える――というものではありません。知ることとわかり合うことは全く別のことなのです。 許すこと、認めることはできるかもしれませんが、それは理解とは別のもの。 そして、人を許し、認めることは、相手の考えをすべて知らなくても、時には理解することすらできなくても、可能なことなのです。 花の心はわからなくても、人は花を愛せます その行いが清らかならば、その人の心の奥底に何が潜んでいたとしても、それは大した問題ではありません。 誰の心にも欲望はあって、残酷も罪も醜さもあるのです。 でも、愛する人のためにその気持ちを抑えているのなら、その心こそが美しいではありませんか。 シュン王子は混乱の果てに到達したその思いを噛み締めて、自分の中のヒョーガに言いました。 『ヒョーガ、ごめんなさい。僕はきっと死んでしまう。ヒョーガの命を守りたくて、だから、僕は神に祈ったのに、結局僕はヒョーガを死なせてしまう……』 『……シュン、そんなに悲しむことはない。俺がおまえに感謝していることも、俺がおまえを愛していることも、おまえにはわかるだろう?』 『ヒョーガ……』 『シュン…!』 と、ここで互いに抱きしめ合うことのできない不自由さ! 繋がりっぱなしでいるなんて、恋人同士には苦痛以外の何ものでもありません。 でも。 もうすぐ、その苦しみも終わります。 終わるはずでした。 最愛の弟の死を――しかも、どこの馬の骨ともしれない男との、まさに情死を――受け入れることのできないイッキ国王が、血相を変えてシュン王子の寝室に飛び込んでさえこなければ。 |