reason to be

〜森本ルキオさんに捧ぐ〜






「閉じ込められた……みたいだね、星矢」
「のようだな」

その二人のガキ共は、どこからか洩れ射し込んでくる微かな光の中で顔を見合わせた。
どう見ても中坊、うまくしても高校に入ったばかりだ。
片方はいかにも生意気盛りなガキで、もう片方は、割りとおとなしそうなガキ――に見えた。

『見えた』と、言い方が過去形になったのは、今はここが薄暗くて、まともに人の顔の判別もできねー状態だからだ。
ここがこんな薄闇に覆われる前、俺があのガキ共――の片割れ――を最初に垣間見た時の印象は、そうだった。

おとなしそうなガキ。





元はと言えば、1時間ほど前の突然の雷雨。
奥多摩周遊道路をバイクでツーリングしていた俺は、脇道に逸れた。その先にトンネルがあることを知っていたから、そこで雨宿りをしようと思ったんだ。
俺がトンネルに入って2、3分経ってから、マウンテンバイクに乗ったその二人組がトンネルの中に滑り込んできた。
その時、見たわけだ、俺は、そのガキのおとなしそうな横顔を。
その途端に、あの落雷――だった。

立て続けに4、5発。
突然の落雷は、まるで狙い撃ちしたようにトンネルの周囲に集中して落ちやがって、何がどうなったんだかわかんねーでいるうちに、俺とその二人のガキは戻るも進むも不可能な状態になっちまった。つまり、がらがらと崩れ落ちてきたトンネルの岩盤が、出口と入口を塞いじまったわけだ。
バイクから少し離れたところにいた俺は無事だったが、俺のバイクは落ちてきた岩盤の下敷きになって半壊。
俺は呆然とした。
いったい誰が、ぺしゃんこになった俺のバイクを弁償してくれるっていうんだ!?
買ってまだ3ヵ月も経ってねーっていうのに!

トンネルの出入り口が塞がれちまってなくても、俺の目の前は真っ暗になっていただろう。
ガキ共は、毒づくセリフも思いつかねーほどショックを受けてる俺がここにいることに気付いてやがらねーようだった。おまけに、奴等は、こんなとんでもねー状況だっていうのに、少しも慌ててなかった。

「わりーなー、瞬。俺が、鮎の塩焼きが食いてーなんて言いだしたせいで。ちぇっ、おまけに、ここで雨宿りしよーなんて言い出したのも俺だし……。あーあ、マズったなー。おまえに風邪なんかひかせたら、氷河に殺されると思ったんだよ、俺」
「星矢のせいじゃないよ。僕も、都民の森の売店で売ってるアイスクリームが食べたかったんだから。でも、どうする?」
「チャリを諦めることにして、トンネル塞いでる岩をぶっ飛ばすか? トンネルの天井が崩れ落ちてくる前に外に飛び出せばいい」
「そうだね、それしか方法は……」

こいつら、自分たちが超人ハルクか何かだと思ってやがるのか?
トンネルを塞いでる岩をぶっ飛ばすの、天井が落ちてくる前に外に飛び出るのと、怪力の熊にも超素早いゴキブリにもできねー夢みてーなこと言いがって。

――と、呆れるを通り越して腹を立ててる俺の存在に、奴等の片割れ――おとなしそうな方、瞬とか呼ばれている方だ――が、やっと気付いた。

その夢みてーなことを本気でやるつもりだったとは思えねーが、崩れた岩盤の様子を確かめようと辺りを見回した瞬が、俺を見て肩をすくめる。

「星矢、どうやらそれは無理そうだよ」
「なんで? 簡単じゃん」
「僕たちだけだったらね」
「へ?」





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