「きゃわちゃんはねえ、最初、パパのお嫁さんになりたかったの。パパのお嫁さんは天国に行っちゃっててもう帰ってこないんだって」
「……うん」

原因究明の極秘任務を帯びてきゃわの遊び相手を始めた瞬に、きゃわは嬉しそうにクマのヌイグルミを貸してくれた。
きゃわが屈託のない口調でそう言うのを聞いて、瞬はぎこちない笑顔を作ってきゃわに頷いてみせたのである。

日本人ではないアルビオレが日本に居を構えたのは、彼の配偶者が日本人だったからだと瞬は聞いていた。瞬は彼女には会ったことがなかったが、師のことだから、愛情細やかな優しく穏やかな家庭を営んでいたのだろうと思う。
きゃわが父親に寄せる信頼と親愛を見れば、それは一目瞭然のことだった。


「でも、パパとはケッコンできないって聞いたから、瞬ちゃんのお嫁さんになることに決めたの。瞬ちゃんはパパに似てるから」
「似てる?」

きゃわは、瞬の意識が自分に向けられていることがわかってさえいれば、瞬を独占しようとして駄々をこねるようなことはしない。
彼女は、傍から見ればまるで瞬がそこにいることを無視しているかのように、夢中になって色とりどりのブロックを組み立てていた。

「似てるのは氷河の方でしょう? 先生とおんなじ金髪で青い目で……」
「似てないもーん。氷河はきゃわちゃんのこと嫌いだもん。でも、パパと瞬ちゃんはきゃわちゃんのこと好きだよねー」
「氷河だって、きゃわちゃんのこと好きだよ」

相変わらずブロックに熱中したまま、しかし、きゃわはきっぱりと瞬の言葉を否定した。

「嘘だ」
――と。

思いがけないほど確信に満ちたきゃわの返答に、瞬は一瞬、この幼い子供に気後れさえ感じたのである。

「き…きゃわちゃん、氷河に何か言われたの」

きゃわの方は、自分の言葉が他人に衝撃を与えるほどの力を持っているとは思ってもいないらしく、また別の玩具に注意を向けて瞳を輝かせている。

「言われなくてもわかるも〜ん」

ひどくのんびりした響きのきゃわの言葉には、緊張感も他意も邪気もない。
だが、だからこそかえって、それは、瞬の胸に穏やかならざる影を落としたのである。






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