「瞬……!」 氷河の声で、瞬は自分がカミュの凍気に勝ったのだということを知った。 己れの意識を捻じ伏せようとする深い眠りの強い力に逆らい、必死の思いで瞼を開ける。 そこに、青い瞳があった。 「瞬!」 「氷河……。…そう、僕、うまくやれたんだね」 「瞬、何故こんなことを……!」 何故? 何故だったのかと考えることさえ、思い出すことさえ、今の瞬には苦痛だった。 だが、そんなことは思い出さなくてもいいことである。 氷河には、別のことを言ってやらねばならないのだ。 瞬は、自分の内に残っている最後の力を振り絞った。 「氷河……強いってどういうことかわかる? 優しいってどういうことか、愛情がどういうものなのか、氷河にはわかる?」 命の炎も消えかけているような瞬に突然尋ねられた氷河が、その瞳を見開く。 だが、すぐに、彼は頷いた。 今ならわかる。 力の失われた細い身体を仲間の腕に任せている瞬の瞳の中に、氷河は、“それ”を痛いほど感じていた。 「カミュは間違っている。彼を正してやるのが、氷河の強さで、氷河の優しさで、そして、氷河の愛情だよ」 「ああ」 「闘えるね?」 「もちろんだ。たとえ何があっても、這いつくばってでも宝瓶宮に行き、俺の全ての力を使い果たしてでも、カミュの誤りを正してやる…!」 「うん、よかった……」 命を懸けただけのことはあったようだと、瞬は心の内で微笑した。 蘇ってくれた友の決意を喜んでみせるだけの力も、既に瞬からは失われていたのだ。 意識が、急激に、闇の底に引きずられるように薄らいでいく。 瞬の視界に最後に映ったのは、他の仲間とは違う色の氷河の瞳だった。 その瞳の中に、友情ではない光を見い出して、瞬はぼんやりと思った。 (やだな、僕はそんなつもりで……) 仲間だから……確か、自分は仲間の命を救うために、この無謀に挑んだのだ。 本当にそうだっただろうか? 本当にそれだけの理由で、自分はこの友に命を懸けたのだっただろうか。 瞬はもう、そんなことすら思い出せなかった。 (でも……) (でも……悪い気はしないね。この情熱的な青い瞳に見詰められるのは……) 二度と目覚めることのない深い眠りに全身を抱きすくめられようとしている時に、そんなことを考えている自分自身に呆れ、瞬は微かに苦笑した。 |