「瞬様、瞬様、大丈夫ですか…っ !? 」 ガウンを身に着けてベッドに腰をおろした瞬の膝の上で、15号はずっとしゃくりあげ続けていた。 「15号ちゃん、どうして……。眠ってなかったの? 僕の作ったベッド、寝心地悪かった?」 瞬に尋ねられた15号は、瞬の膝の上にへたりこんだまま、大きく横に首を振った。 「ぼ……僕、瞬様にベッドを作ってもらって、とっても嬉しくて、だからご恩返しにずっと起きてて、泥棒が来たら捕まえようって思ったんです……。そうすれば瞬様も喜んでくれて、きっと僕を褒めてくれるって思ったの……。そしたら、夜中なのに物音がして、泥棒かしらって思ったら、お部屋の中から瞬様のうめき声が聞こえてきて……」 そして、15号は赤外線も紫外線も認知することのできる目で自動ドアのセンサーを探しあて、氷河と瞬の寝室に飛び込んできた――のだそうだった。 「そうしたら、あろうことか俺が瞬に襲いかかって、瞬を食おうとしていたわけだ」 「ち…違うんですか……」 15号は完全に氷河を恐がっているようだった。 瞬のガウンの紐にしがみついて、離れようともしない。 いわゆるこれは原始風景との遭遇というものである。 子供が自分の生まれた時代の風景を垣間見てしまったようなものなのだ。 瞬は、人差し指で15号の頭を撫でながら、困ったような顔で説明を始めた。 「あのね……あれは――氷河は僕を食べようとしてるんじゃないんだよ、15号ちゃん」 「食べたいほど可愛いとは思っているがな」 氷河が脇から入れた茶々に、15号がびくっ☆と全身を硬直させる。 「氷河! 余計なこと言わないで! 15号ちゃん、今のは冗談だからね」 「だ……だって、瞬様、泣いてたし、苦しそうだったし……」 まあ、何も知らない子供が傍から見たら確かにそういう光景ではあったろう。 15号が怯えるのも、無理からぬことではある。 「う…んと、あれはね、僕が氷河をとっても好きだから、氷河にだったら何されてもいいよ…って言ってるだけのことなの。氷河は疑り深いから、色々ひどいことするんだけど、僕はそれが嬉しいの」 「……おまえだって歓んでるくせに」 「もう、氷河は黙っててってば !! 」 氷河に食べられかけていたはずの瞬が氷河を怒鳴りつける様を見て、15号は少し安心したらしい。 それでも、瞬の言葉を完全に納得しきれてはいない様子ではあったが。 「瞬様、あんなことされて嬉しいんですか……。僕は人間じゃないからわからないのかしら」 人間と同じように泣き、笑い、怯え、そして人を心配する心まで持っている15号に、しょんぼりと肩を落とされて、瞬は実に切ない気分になった。 膝の上の15号を自分の手の平に乗せて、もう一度その髪を撫でてやる。 「そんなことないよ。15号ちゃん、僕にこうやって抱っこされて撫で撫でされるの嫌い?」 「大好きです! とっても気持ちよくって、気分がふんわりするんだもの」 「僕もね、15号ちゃんは可愛いから、もっとぎゅっと抱きしめたいの。でも、そうしたら、15号ちゃんは壊れてしまうかもしれないから我慢してるんだよ」 「……氷河様は我慢できなくて、瞬様をぎゅっと抱きしめちゃうんですか?」 この小さくて無垢な子供は、しかし、飲み込みが早い。 15号の言葉に、瞬は微笑って頷いた。 「だから、ちょっと痛かったり苦しかったりすることもあるんだけど、僕は嬉しい。だって、あれは、氷河が僕を大好きでいてくれるってことだから。だから、僕も氷河をぎゅっと抱きしめてあげるんだよ」 「わかる……ような気がします。僕も、瞬様にぎゅっと抱っこされて壊れちゃうんなら、ちっとも悲しくなんかないもの」 素直に自分の言葉を受け入れてくれた15号を、その夜、瞬は、自分と氷河の間で眠らせてやったのだった。 |