「きゃ〜〜っっ !!!! 」

キッチンから響いてきた絹を引き裂くような15号の悲鳴に驚いた瞬がその場に駆けつけると、そこには、恐怖のリリィちゃんに追いかけまわされている15号の悲惨な姿があったのである。

リリィちゃんは、どうやら、後片付けをしていなかったケーキの匂いにつられて出てきたらしいのだが、全身からバニラの香りを漂わせている15号を動くケーキか何かだと思い込んで追いかけまわしているようだった。

「ひ……氷河…っ !! 」

レーザーガンを持った押し込み強盗くらいなら、瞬とても片手でお相手できるのだが、相手がリリィちゃんとなると、足がすくんで近付くことすらできない。

「氷河っ、助けてーっ !! 」
瞬は大声で氷河に救援を求め、瞬がキッチンで自分に助けを求めてくるのはリリィちゃん出現の時だけだということを承知している氷河は、光よりも速くキッチンにやってきて、目にも止まらぬスピードでリリィちゃんを撃退した。


とりあえず、この話の設定は近未来。
しかし、まだまだリリィちゃんは健在なのである。

いずれにしても、リリィちゃんの生命力はともかく、さしあたっての問題は、目の前で霧散したリリィちゃんに腰を抜かしている15号である。

「15号ちゃん、大丈夫なのっ !? 」
瞬の手の平に乗せられて安心したのか、15号は、リリィちゃんの姿が消え失せた今になって、大粒の(実際は小粒なのだが)涙を流しておいおい泣き出してしまったのだった。

「しゅ……瞬様、ご…ごめんなさい……。僕、こっそりお片付けしといたら、瞬様に喜んでもらえるかと思……思って……あーん、あーん、恐かったよぉーっっ !!!! 」
「15号ちゃん……」

瞬の中指に取りすがって泣く15号に、リリィちゃんへの恐怖も薄れた瞬は、ほっと安堵の息を漏らしたのである。
「15号ちゃんが怪我したら、僕はとっても悲しいよ。そんなに無理しないでいいからね。お片付けは後で二人でしようね」

「は…はい……。ご…ごめんなさい……」
「うん。わかればいいの」

泣いている子をそれ以上責めるわけにはいかない。
泣きじゃくる15号の背中をそっと撫でていた瞬の中に、その時ふと疑念が湧いてきた。


本来は雇い主の命令には絶対服従のはずのメイドロボ。
いくら15号が最新型で、高度な感情や思考回路を備えているとはいえ、そして、善意と勤労意欲から出たこととは言え、メイドロボが主人の命令に逆らうようなことがあるのは、どこかおかしいのではないだろうか――と。





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