15号が生まれたのは、グラード財団本部ビル地下にある財団の最重要機密研究室。
人間と同じものを食べ、人間と同じ思考回路や言語中枢を備え、何より人間と喜怒哀楽を共にすることが出来る感情回路を持ち、その上に肉体的に人間以上の機能と家事能力を完備した新型メイドロボとして、15号は作られた。
動力エネルギーを最小限に抑え、人間の生活の邪魔にならない超小型メイドロボとして――。

15号の前に作られた、同じ型のメイドロボ1号から14号が、今も財団本部ビルの最重要機密研究室で、15号のモニターテストの結果を待っているということだった。


「僕たちは、感情や思考の面で、人間と全く同じなんだそうです。テストには申し分のない結果を出せたの。でも……」

あまりに高度な機能を持たせすぎた故に巨額になった制作費。
小型化しすぎた故に家事能力で他のメイドロボに劣るという事実。

商品化が無理ならば廃棄するしかないと言われ、最終テストとして氷河と瞬の家に、15号は派遣されてきたのだという。

「僕がご主人様たちに、役に立つメイドロボだって言ってもらえないと、僕の仲間たちが殺されちゃうの……! 僕が研究室を出る時、みんなは無理しないでって言ってくれたの。もしそうできるようだったら、ご主人様に気に入られて、僕だけでも生き延びてって、みんな……みんな、笑って言ってくれたの……!」

「15号ちゃん……」

「僕、ご主人様たちに褒めてもらわなきゃならないの! 最高のメイドロボだって褒めてもらって、僕は……僕は、みんなを助けてあげなきゃならなかったのに……っ !! 」

それなのに、15号は失敗した……ことになるのだろう。
ちょっとした力仕事で疲れ果て、リリィちゃんには追いまわされ、あげく、泥棒を捕まえようとして失敗し、ボディを破損さえさせてしまった――。
これで、立派なメイドロボと言ってもらえるはずがない。

そして、15号の失敗は、15号の仲間たちの死を意味している――のだ。
15号の嘆きは、自分の怪我を悲しんでのことではなかった。
15号の嘆きは――。


『無理をしなくてもいい』と幾度言っても、無理を重ねるばかりだった15号。
その無理の裏に、15号がどれほど悲愴な思いを抱いていたのかを知らされて、瞬は涙が止まらなかったのである。

当の加害者である星矢までが、事情はよくわかっていないのだろうが貰い泣きをしている。


「氷河……」
瞳を涙でいっぱいにした瞬にすがるように見詰められた氷河のすべきことは、ただ一つ。

瞬の瞳と15号の瞳から、その涙を取り除いてやることだけだった。





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