愛と信頼と感動の二人だけの世界を作っている氷の国の氷河と合体瞬。

そこには、そんな二人のやりとりを、どうにも納得できない顔で眺めている勇者が、約二人ほどおりました。

「……どう考えても、あの男にはもったいない」
「まったくだ」
「あの子の目を覚ましてやるのが、勇者の務め」
「可憐な花が、みすみすバカな刺繍男の手に渡るのをただ眺めているなど、勇者の名折れだ」

勇者たちの気持ちもわからないではありませんが、当人たちが納得しているのですから、それは第三者が口出しすべきことではありません。

けれど、勇者の仕事は、悪を懲らし、正義を守ること。
彼等は彼等の正義を守り、彼等にとっての悪を懲らすために、迅速に行動を起こしました。
しかも、まるで示し合わせたように同時に、です。

「いくぞ! 覚悟しろ」
「受けろ、正義の鉄拳!」

かくして、石の国の限りなく黄金に近い白銀の勇者アルゴルと黄金の勇者ミロの勇者パワーが、氷の国の氷河めがけて放たれました。
その力は、相乗効果で超強力な光の帯となり、うなるように氷の国の氷河に襲いかかります。

「氷河っ!」


氷の国の氷河は――、針仕事以外は何事もローペースな刺繍男ではありました。
ですが、そんな氷の国の氷河も、この時ばかりは軽く光速を超えた動きを見せました。
彼は、何よりもまず、彼の大切な合体瞬を、強大な勇者パワーの攻撃から逃れさせるべく、合体瞬に向かって叫びました。

「瞬っ、逃げろっ!」

けれど、そう言われて、愛する氷の国の氷河を置いて逃げるような合体瞬ではありません。
「氷河―っ !! 」

何ということでしょう。
合体瞬は、氷の国の氷河を庇い、ミロとアルゴルの勇者パワーをその身に受けて、そのまま、その場に崩れ落ちてしまったのです。

「瞬――っっ !!!! 」

氷の国の氷河の絶叫が、辺りに響き渡ります。
それは、心を持たないはずの冷たい石でさえ胸に痛みを覚えるような、悲痛で切ない叫び声でした。






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