小人たちは、なんだかあまり整理整頓されていない小さな部屋のテーブルの上にいました。
テーブルの真ん中には、15枚のビスケットと、ミルクの入った15個のスプーン。
それから、その横に、
『小人さんたち、よろしく』
と書かれたメモと、不思議な設計図が一枚置いてありました。
そして、たくさんの文字が印刷された紙の束。

「ねえ、この紙の山は何だと思う?」
3号は、クッキーをかじりながら仲間たちに尋ねました。

「うーん、何だろうねぇ」
6号は、ミルクにクッキーを浸して食べています。

「読んでみればわかるんじゃない? この紙の束、番号が振ってあるよ」
8号は、既にクッキーを全部食べてしまっていました。

「あ、そだね。可愛い絵は描かれてないけど、もしかしたら楽しいお話かもしれないね」
最後のひとかけをごくりと飲み込んだ12号はそう言って、ゆっくりゆっくり大切にクッキーを食べている9号の顔を覗き込みました。
小人たちの中で、いちばんたくさん難しい字を知っているのが9号だったからです。

「ちょっと待ってて」
9号は、残っていたクッキーを急いで食べ終えると、幾つかの山になっている紙の束によじ登りました。
残りの14人は、紙の束の横で、9号がお話を読み始めるのをわくわくしながら待っています。

「えへん」
9号は、咳払いを一つしてから、1番の番号が振られた紙を覗き込みました。

「これはきっと、このお話のタイトルのページだね。『氷河と瞬ちゃんのえっちなおはなし』って書いてあるよ。written by nyamakemonyo っていうのは、にゃまけもにょ って人が書いたお話っていう意味だよ」

「僕たちの氷河とおんなじ名前だ!」
「瞬って、僕たちが合体した時の名前だよね!」
小人たちは、それが自分たちと同じ名前の人が出てくるお話だと知らされて、なんだかとても嬉しくなりました。

誰でもそうですよね。
その登場人物がものすごい悪役でない限り。

「でも、『えっちなおはなし』って、どんなお話なんだろう?」
「それは僕にもわからないけど……」
9号にわからないことが、他の小人たちにわかるはずがありません。
この紙の束に書かれているお話はとても難しいお話に違いない――と、小人たちはちょっと不安になりました。

「にゃまけもにょ って、あの人のことかなぁ」
不安そうな顔をしながら、14号が、テーブルのある部屋の隣りの部屋でぐーすか寝ている女の人を指差します。
「きっとそうだね」
その女の人は、深夜だというのに電気もつけっぱなしで、ずいぶんだらしない格好で、すかすか寝ています。
あんまり美しい光景でもなかったので、9号はその人をちらっと見ただけで、すぐに視線を紙の束の方に戻しました。

「えと、2ページ目は……と」
9号は、1ページ目の隣りにある2ページ目を見た途端に、顔をくしゃりと歪めました。

「9号、どうしたの?」
「うん……。にゃまけもにょさんは、あんまり頭のいい人じゃなさそうだよ」
「え? どーして」
「だって、ここに書いてあるお話に難しい漢字なんて一個もないもん。これなら、僕じゃなくても、誰でも読めるよ」
「ほんと?」

難しいお話なら9号に読んでもらってもつまらないかもしれないと思い始めていた小人たちが、9号のその言葉を聞いて、ぞろぞろと紙の束の上に登り始めます。
「あ、ほんとだ。これなら僕にも読めるー!」

小人たちは、ひらがなばかりの字の本に大喜び。
先を争うようにして、お話を読み始めました。
なんと言っても、『氷河と瞬ちゃんの(えっちな)おはなし』です。
小人たちは、興味津々でした。