そんなふうに、小人たちの食後の読書タイムが始まって数分後のことでした。

「あー、このお話の氷河、瞬ちゃんにちゅうしてるー!」
氷河と瞬ちゃんのお話のいちばん先を読み進んでいた15号が、突然大声を響かせたのです。

「えっ、ほんと? どこどこ、何ページ目?」
「ここ、ここ。8ページ目」

まるで宝物を見つけたみたいに大喜びの15号が乗っている紙の束に、小人たちが群がります。
15号の指し示した場所を読んで、小人たちは歓声をあげました。
「わあ、ほんとだ!」
「もしかしたら、『えっちなおはなし』って、『仲良しなおはなし』って意味なのかもしれないね!」

純真な子供は、時として何も知らないが故に真実を言い当てることがあります。
2号の言う通り、『えっちなおはなし』というのは、『仲良しなおはなし』という意味でした。

小人たちは、わくわくしながら、9ページ目と10ページ目の紙の束に飛び移りました。

ところが。

どうしたことでしょう。
それまで、あんまり難しい漢字を知らない小人たちにもすらすら読めていた『氷河と瞬ちゃんのえっちなおはなし』に、突然意味不明の言葉や難しい漢字がたくさん出てきたのです。

「ねえ、『氷河は瞬の(1)(1)した(2)(2)に(3)(3)くなった(4)(4)を(5)(5)のように(6)(6)した』って、どういう意味なの?」
「(1)(1)ってどういうこと?」
「(2)(2)ってなーに?」
「どーして、(4)(4)は(3)(3)してるの〜?」
「(5)(5)のようにって、このお話の瞬が怪我しちゃうんじゃないかしら」
「てゆーか、どーして(6)(6)しなきゃならないの〜???」
「このお話の瞬ちゃんは嬉しいの? 悲しいの?」
「このお話の氷河は、どうして瞬ちゃんをいじめるの?」

それまで、お話の中の氷河と瞬ちゃんは、『ゆうえんちに出かけ』たり、『みつめあってほほをそめ』たりしていたのです。
それが、『氷河が瞬にだい好きとうちあけ』た途端、いつの間にか夜になっていて、場所も突然寝室に変わり、瞬ちゃんは『せつなそうな声をあげ』始め、氷河は『けもののような目になっ』ているのです。
小人たちは、訳がわからずに首をかしげてしまいました。

小人たちはみんな、うんうん唸りながらそうなった訳を考え始めたのですが、難しい漢字も知っている9号には、最初からその訳がわかっていました。
さすがは“お利口”担当の9号です。

「そんなに悩むほどのことじゃないよ。このお話の氷河は、悪い魔法使いに呪いの魔法をかけられて、ほんとは大好きな瞬ちゃんをいじめる悪い氷河にさせられちゃったんだよ」

9号の説明は、小人たちを納得させるに十分なものでした。
9号の言う通りなら、突然瞬ちゃんをいじめ始めた氷河の行動も理解できます。

「えー、そんなのかわいそー」
「でもでもさ、最後は魔法が解けるんでしょ?」
「うん。最後のページで、瞬ちゃんが氷河に笑ってちゅうしてるから、魔法が解けたんだよ、きっと」
「あ、ほんとだー♪」
「よかったね〜」
「ねえ、でも、この瞬がちゅうしてる(4)(4)ってどこ〜?」
「うーん」
「あのさ、きっとさ、氷河の大切なとこだよ。だって、ちゅうしてるんだもん〜」
「あ、そっか、そーだよねー」
「よかったー。ハッピーエンドだー」
「うん、よかったね〜vvv」

――というわけで、小人たちは一安心。

それは本当に素敵なお話でした。