――有明ビックサイト。
そこは、日本中の同人野郎・同人娘・オタク・コスプレイヤーの聖地です。


初めてコミケ会場に足を踏み入れた小人たちは、その会場のあまりの広さと、お砂糖壺のお砂糖の粒よりもたくさんの人の波に圧倒されてしまいました。

「み…みんな、迷子にならないように気をつけようね!」
「う…うん。でも、ほんとにおっきいね〜」
「大丈夫かしら。僕たち、踏み潰されたりしないかしら」

入場チケットは3枚しかありませんでしたが、小人たちは15人。
コミケのサークル受付の人とすったもんだしたあげく、小人たち全員の入場を許す代わりに、氷の国の氷河は一般入場することになってしまったので、氷の国の氷河が一般入場してくるまでは、小人たちは自分たちだけで、お店を開く準備をしなければなりません。

人の(足の)波をくぐりぬけ、やっと自分たちのサークルスペースに辿り付いた小人たちは、テーブルの足を伝って、なんとかテーブルの上によじ登りました。

あとは、テーブルの下にあるヒモでくくった本をみんなで持ち上げて、テーブルの上に並べればいいだけのはずだったのですが、世の中、そううまく事は運びません。

なんということでしょう。
小人たちがよじ登ったテーブルの上には、コミケ名物チラシの山が形成されていたのです。
小人たちが作ったA12サイズの小さな小さな本と違って、チラシのサイズはB4、A3、中には新聞紙サイズのものや分厚い本になったものもあります。
これは、小人たちの力でどうなるものでもありません。

けれど、何事にもくじけない小人たちは、もちろん、普通サイズのコミケッターさんでさえ、『うへ〜』となるような大量のチラシにもめげません。
みんなで力を合わせて、
「よいしょ、よいしょ」
とチラシ片付けを始めました。

1時間ほど経って、何とかチラシをテーブルの端に寄せることのできた小人たちに、けれども、またまた新たな苦難。
チラシの山の下から、今度はなんと折りたたまれたパイプ椅子が現れたのです。

何事にも挫けない小人たちも、これには大弱りです。
15人の力を結集させたとしても、パイプ椅子をテーブルの下におろすのは、まず不可能なこと。

「どうしよう……。やっぱり、お店を開くのは、氷河が一般入場してくるまで待つしかないかしら……」
と、小人たちは、椅子の横で呆然としてしまったのでした。

けれど、コミケは、本を売ったり、コスプレをするだけの場ではありません。
そこは、新しいお友達を作る場でもあったのです。

巨大なパイプ椅子の前に為す術もなく立ち尽くしている小人たちに、お隣のサークルさんが声をかけてくれたのでした。
「大丈夫ですか? 僕、お手伝いしましょうか?」
――と。

それは、自分達の夜の生活暴露本を出している、『 瞬ちゃんズ 』というサークルのみしぇ瞬ちゃんでした。

「あ……あの、あの、お願いしてもいいですか?」
なにしろコミケ参加はこれが初めての小人たち。
見知らぬ人の厚意に甘えてもいいのかしらと、ちょっと不安です。

けれど、みしぇ瞬ちゃんは、にこにこしながら小人たちのテーブルの椅子を片付けてくれました。
小人たちは、みしぇ瞬ちゃんの親切に大感激。

広くなったテーブルで、小人たちは早速、『みしぇ瞬ちゃん、ありがとう』のダンスをご披露しました。

みしぇ瞬ちゃんは、初めて見る小人さんダンスに驚きながら、それでもぱちぱち拍手をしてくれたのです。

そこに、
「あれぇー、小人さんたちじゃない!」
「たれたれ瞬ちゃん、知ってるの?」
ちょっと遅刻してきたたれたれ瞬ちゃんと、食料の買出しに行っていたきゃわ瞬が戻ってきたのです。

「たれたれ瞬ちゃんー !! 」× 15

思いがけない場所で、見知った顔に出会い、小人たちは大喜び。
自分たちの作った本を誰かに読んでもらいたいの一心でコミケに参加してはみたものの、小人たちはやっぱりちょっと心細かったのです。

たれたれ瞬ちゃんも、まさかコミケ会場で小人たちに会えるとは思ってもいませんでしたから、この偶然の出会いに驚きながらも、とても嬉しそうでした。

「小人さんたち、どうしてここにいるの? 僕は、みしぇ瞬ちゃんときゃわ瞬ちゃんと一緒に本を出してるんだけど」
「あのね、あのね、僕たちも本を作ったの。だから、それを誰かに読んでもらいたくて、氷河にコミケに申し込んでもらったの」
「えー、そうなんだー」

たれたれ瞬ちゃんは、小さな身体で本を作った上、コミケにまで参加する、小人たちの行動力に感心しながら、仲間のみしぇ瞬ちゃんときゃわ瞬を小人たちに紹介してくれました。

小人たちも、
「初めまして、1号です」
「初めまして、2号です」
「初めまして、3号です」
「初めまして、4号です」
「初めまして、5号です」
「初めまして、6号です」
「初めまして、7号です」
「初めまして、8号です」
「初めまして、9号です」
「初めまして、10号です」
「初めまして、11号です」
「初めまして、12号です」
「初めまして、13号です」
「初めまして、14号です」
「初めまして、15号です」
と、礼儀正しくご挨拶。

ついさっきまでの不安はどこへやら、すっかり安心して、一般入場の時を待ったのでした。