それから、しばらく、ニコルは机に向かって面白くもない書類を眺めていました。 いつも書類読みの邪魔をしていた小人たちがいなくなって、お仕事がはかどるはずなのに、何だかちっとも書類を読む気がしません。 最後には、ニコルはつまらない書類を机の端に押しやってしまいました。 ちょうどそこに、ユーリさんがやって来て、ニコルに言いました。 「ニコル様。小人さんたち、いなくなっちゃいましたよ」 ユーリさんは、何だか怒っているようでした。 「なに?」 「小人さんたち、ニコル様がいつも仕事で苛立ってるみたいだったから、励ましてあげようと一生懸命だったんですよ。ニコル様に笑ってほしくて、楽しい気持ちにしてあげたくて、ほんとに頑張ってたんだから!」 「…………」 ユーリさんの言葉を聞いて、ニコルは瞳を見開きました。 あれは、小人たちが勝手に楽しんでいたのではなかったのでしょうか。 小人たちは、ニコルのために、笑顔を作ってくれていたのでしょうか。 「ひどいわ! 小人さんたち、そりゃあ、しょんぼりして、『僕たち、僕たちの氷河のところに帰ります』って言って、壺の中に消えちゃいましたよ!」 「私は……」 「少しくらい、笑ってあげてもよかったじゃないですかっ! 毎日ケーキ食べさせてあげてるのは私なのに、小人さんたちはニコル様の側にいたがって……。小人さんたちは、ニコル様のことが大好きだったのに!」 「しかし、あんな――毎日呑気に笑ってばかりいるような……」 「笑ってばっかりいても、小人さんたちはニコル様のために一生懸命だったんです! 毎日難しい顔ばっかりしてるニコル様より、ずっと頑張ってたんだからっ! シリアスぶってばっかりいるニコル様の100倍も小人さんたちの方が大人だわっ!」 小人たちとの別れが辛かったのか、ユーリさんの瞳には涙がにじんでいました。 「いつも笑ってた小人さんたちが、寂しそうに笑って、『お仕事頑張ってください』ってニコル様に伝えてって言って、あの小さな手でばいばいして……。あーん、小人さんたちがいなくなっちゃったよぉーっっ !! 」 きっつい性格が売りだったユーリさんにわんわん泣かれて、ニコルは大弱りです。 「わ……私だって、本当は可愛いと思っていたんだ……。しかし、私は、教皇代理で責任があって――」 「だから笑っちゃいけないなんてことはないでしょう!」 ユーリさんの言う通りです。 ユーリさんに涙ながらに怒鳴りつけられて、ニコルは、自分がこれまでどんなに愚かだったのかを、初めて知ったのでした。 人の生きるは、重い荷を背負うて長き道を行くがごとし。 でも、だからこそ、笑いながら歩いていきたいもの。 多分、きっと、重い荷物を背負った長い道を笑いながら生きていける人間が、いちばん強い人間なんです。 「……そうだ、な。今度、あの子たちに会ったら……」 目一杯の笑顔で応えてやりたい――。 ニコルは、心の底からそう思ったのでした。 |