ところで、ピアノの鍵盤は、普通はオークションに出品されるものではありませんし、それだけあっても何の役にも立ちません。 音楽雑誌のグラビアに載った、練習疲れの4号がうたた寝をしていた『レ』の鍵盤や、7号のお気に入りで、いつも椅子代わりに使ってる『ファ』の鍵盤なら、それなりに有名ですから、結構な値で売れるかもしれませんが、問題はそんなに有名じゃない鍵盤です。 無名の鍵盤をいかに高値で売りさばくか。 それによって、氷の国に橋が架かるか、街灯が灯るかが決まってくるのです。 そして、そういう苦境(?)にある時にこそ、9号の知恵が発揮されることになるのでした。 「ピアノの鍵盤全部に付加価値をつけることで、値をつりあげるんだ。売上目標1億めざして頑張るぞー !! 」 9号は、めちゃくちゃ張り切っていました。 「えー、でも、どーするの?」 「このピアノ、もともと500万円くらいなんでしょ? コンサート用のグランドピアノって、もっと高いの使うのが普通なんだよね」 「僕たち、ハンマーで叩くからね」 「ローンの支払いもまだ済んでないんだよね」 「ローン組めただけマシだったんだ! 僕たちの氷河には身元保証人もいないんだから」 9号は、もちろん、そんなことは承知の上です。 「9号が、うまく銀行屋さんを言いくるめたんだよね」 「大蔵大臣だもんね」 「銀行のおじさん、9号のウインクにくらくらしてたみたいだったね」 「僕たちも頑張ったんだけど、9号以外はみんな、両目つぶっちゃったんだよね」 「ウインクって難しいよね〜」× 14 「そんなことはどうでもいいんだ。僕の作戦を聞いて!」 「はーい」× 14 9号ほどではないにしろ、他の小人たちも、氷の国の氷河よりは氷の国の経済状態を把握しています。 9号の呼びかけで、小人たちは真剣な顔をして円陣を組みました。 「ピアノの鍵盤は88個ある」 「えー、そんなにあるんだー」 「僕、全然知らなかった」 「数えたこともないもんね」 「うん、なかったよね〜」 「静粛に! 88と言ったら、これは星座の数と同じだ」 「わぁ、9号、物知り〜」 「僕、知らなかった〜」 「僕も、数えたことなかったよ」 「お星さまはいつも見てるのにね〜」 「僕だって、数えたことなんかないよ。昨日読んだ、天文学の本(←文庫版『聖闘士星矢』)にそう書いてあったんだ」 「すごいー、9号ったら、テンモンガクの本なんか読んでるんだー」 2号は、本当は、『テンモンガク』の意味も知りませんでしたが、自分が知らないことを知っている9号に感心することは、間違ったことではありませんよね。 「ふっ、まあね」 2号に褒められた9号は、ちょっと得意そうです。 「うん。だからね、鍵盤にそれぞれ星座の名前をつけるんだ。そうすれば、全部の鍵盤が特別な鍵盤になる。そこに、みんなで手分けしてサインをいれて、1個100万円の鍵盤の出来上がりさ。それに、本体や椅子も売っちゃえば、多分、1億円くらいにはなるはずだよ」 褒められたからというわけでもないでしょうが、9号は今日も冴えています。 「しつもーん。星座の名前って、どうやってつけるの〜?」 「サインペンで書くのさ。ほら、こんなふうにね」 準備万端な9号は、見本まで用意していました。 9号が仲間たちの前に披露してみせたのは、『羅針盤座 9号』と書かれた白い鍵盤です。 結構ヘタな字でした。 が、ヘタかどうかを判断する以前に、小人たちはその漢字が読めなかったのです。 「わぁー、これ何て読むの〜?」 「そんなの知らないよ。本の通りに書いただけだもん。とりあえず、難しいのは僕が書くから、みんなは好きなの6個選んで、その星座の名前と自分のサインを入れてよ」 「は〜い」× 14 付加価値つき鍵盤作成はなかなか面白そうな作業でした。 乗り気になった小人たちは、早速、わいわいがやがや。 「んーと、僕、矢座がいいな。字の数、少ないもん」 「カタカナも簡単そうだね。僕、コップ座!」 「うーん、僕、どれにしようかなー。アンドロメダ座、カタカナだけど、字の数が多いねー」 「これって(と言って、『白鳥座』を指差す)、しろうま座って読むの?」 「鳳凰座は……難しいから、9号に書いてもらおう」 「書きあがったら、氷河のとこに行って、鍵盤と一緒に写真を撮ってもらうこと。それで、やふぅのオークションに出すからね。あ、4号の『レ』と7号の『ファ』はさざびーのオークションに回すから、別に分けといて。あの2つは1個500万くらいにはなるよ」 「ねえねえ、これでたくさん儲かったら、氷河に形状記憶シャツ買ってあげられるかしら?」 「氷河、いつも、汗だくでシャツにアイロンかけてるもんね〜」 「あのねあのね、僕、氷河の髪の毛 結ぶおリボンも買ってあげたいの」 「お掃除する時、邪魔そうにしてるよね〜」 「それからそれから、氷河にゴム手袋も買ってあげたい!」 「水仕事は手が荒れるもんね〜」 氷の国では、なにしろ大蔵大臣がしっかりしすぎているので、国家予算を引き出すのもひと苦労なのです。 けれど、今日の大蔵大臣は、大儲けの予感のせいで、かなり太っ腹になっていました。 「南の方に山を一つ買って、東の小川に橋を架けて、氷瞬城の玄関の電気を取り替えて、予算が余ったら氷河のものも買えるよ」 「よーし、僕たちの愛する氷河のために頑張るぞー !! 」 「おーっっっ !!!! 」× 15 小人たちは、氷の国の氷河の形状記憶シャツ獲得のためとあって、15人が一丸になって大張り切り。 9号の適切な指示に従って、あっという間に付加価値つき鍵盤はできあがったのです。 そして、小人たちの作った付加価値つきピアノ鍵盤は、つい先日やっと繋がったばかりのインターネット回線を使って、無事にやふぅオークションに出品されたのでした。 |