「クレープにかけるソースはチョコレートとストロベリーの2種類あるからね。生クリームのおかわりいる人〜!」

クレープのソースの種類を尋ねてくるたれたれ瞬ちゃんに、小人たちは全員揃って、
「は〜い」× 15


「こら3号、5号、クレープをはしからめくってみるんじゃない、行儀が悪いぞ! 7号! 生クリームに顔突っ込んでると溺れるぞ」
氷の国の氷河も、今日はいつも通りに父性全開です。

「だって〜、中に何が入ってるか気になるんだも〜ん」
「ね〜」
「7号のお顔、クリームで真っ白だよ」
「僕が舐めてあげるよ」
「僕も、僕も〜」
「やーん、くすぐったいよ〜」


氷瞬城での『氷の国の宇宙人襲撃裁判顛末記』の編集作業は、瞬ちゃんズの3倍はにぎやかでした。
なにしろ小人たちは15人もいますからね。

「おい。装丁はどうするんだ?」
「氷河の新作刺繍で僕たちのピアノ演奏の風景柄のがあるから、それを使う予定になってるの」
「ページ組はこれでOKだな」
「さすがたれたれ氷河さん、鮮やかな編集だよね」

9号は、氷の国の氷河のみならず、たれたれ氷河さんにまで、ちゃっかり編集のお手伝いをさせていました。

「初版の部数はどのくらいの予定なんだ?」
「まず最初は150万部にしようと思ってるの」
「その倍でもいいんじゃないか?」
「10万部単位で、1号から順にシンボルカラーの化粧箱入りの手形とサイン入りの特別仕様にするの。そのあとに通常版を重版って形にして、特別仕様本の価格は通常版の1.5倍の予定だよ」

「なるほど。ところで、解説の原稿料の件だが……」
しかし、たれたれ氷河さんは、氷の国の氷河なんかとは違って、なかなかしたたか、タダ働きをするつもりはないようです。

「原稿用紙1枚につき10万円っていうお話でしたよね」
9号も、氷の国の氷河と相対する時とは表情が変わります。
9号とたれたれ氷河さんのやりとりは、デキる男同士の対話なのです。

「報酬の変更をしてもらいたいんだが、いいかな?」
「はい、ご希望を伺いましょう」
「小人さんピアノ演叩会の年間指定席チケットを1年分と、これは瞬の希望なんだが、リビング用のカーテンに氷の国の氷河の刺繍作品が欲しい。柄は君たち15人ので、これが瞬の描いた図案なんだが」
「承知しました! おやすいご用です。僕たちのピアノ演叩会のロイヤルボックス席の年間リザーブ権を3年間分と、氷河のリビング用刺繍図柄カーテン2枚確かに承りました!」
「では、商談成立ということで」
「はい!」

デキる男たちが、右手人差し指とちっちゃな両手で固い握手を交わしている側では、
「待て待て、6号! ほっぺにチョコレートがついてるぞ! 8号、11号、いつまで覗いていても、もうチョコレートソースもストロベリーソースもないんだよ!」
てなふうに、いつもの通り、父性本能全開の氷の国の氷河の姿。


編集作業の後には、印刷・製本作業があるのだという、実に当然かつ必然的な事実に、その時、氷の国の氷河はまだ気付いていなかったのでした。