「え? 150万部を、俺がひとりで印刷・製本?」 「うん、2日もあれば大丈夫だよね?」 あっさりと言ってのける9号に、氷の国の氷河は一瞬、言葉を失いました。 「は…ははははは。楽しい冗談だな、9号」 「僕の辞書に『冗談』なんて言葉が載ってると思うの?」 「…………」 約5分間の沈黙の後、氷の国の氷河はなんとか気を取り直ししました。 「あのな〜、俺は毎日、おまえたちのご飯とおやつの準備をして、掃除をして、繕い物をして、お風呂に入れて、海坊主の役をやって、寝かしつけてからぱんつ作りをして……」 「氷河ー、頑張ってね〜」 「僕たち、応援するね〜」 「僕たち、氷河の印刷を応援するダンスと製本を応援するダンスを作ったの」 「氷河が働いてる横で、踊ってあげるね」 「氷河が眠れない分は、僕たちが眠ってあげる」 「氷河の分のおやつは僕たちが食べてあげる」 「僕たち、氷河のお仕事の邪魔にならないように、いい子にしてるよ」 「僕たちみんな氷河の応援してるの」 全く罪の意識のない小人たちの無邪気な応援に、氷の国の氷河はまたしても絶句です。 とどめに、世界でいちばん吝嗇家の大蔵大臣9号に、 「氷の国の財政が安定したら、いちばん最初に氷河に形状記憶シャツと、髪の毛結ぶおリボンと、ゴム手袋を買ってあげるんだ!」 と言われてしまっては、氷の国の氷河は完全に沈黙するしかありませんでした。 「…………頑張ります……」 「あ、輪転機がまわってる間に、たれたれ氷河さんの解説の原稿料の刺繍もしてね」 「はい、かしこまりました……」 氷の国は民主主義国家でしたから、氷の国の氷河は、大蔵大臣と国会の意向に逆うことはできなかったのです。 |