「みんな、今は心を鬼にするんだ」
そんな仲間たちに、9号は静かに、重々しい声で言ったのです。

「心を鬼に?」
「そうだよ、鬼にするんだ。今回の宇宙人襲撃でわかったでしょ。お金がないせいで、僕たちは氷河と離れ離れにさせられるとこだった」
「うん……」× 14

「氷の国にはお金がないんだ」
「うん……」× 14

「僕たちが僕たちの氷河といつまでも一緒にいるためには、僕たちの氷河を守るためには、お金が必要なんだよ!」
「うん……」× 14

「僕は、だから、決意したんだ。たとえ何があっても、僕たちが僕たちの氷河と一緒にいられるように、100億円貯めることを! たとえ、僕が氷河に憎まれて恨まれることになっても、100億円で僕たちの氷河を守れるのなら安いものだもの!」

氷の国でいちばん大人で、氷の国でいちばんお利口で、氷の国でいちばんドライな9号のつぶらな瞳には、うっすらと涙の膜がかかっていました。
その潤んだ瞳を見て、9号の仲間たちは初めて、9号の本当の気持ちを知ったのです。

「9号ったら、そんな辛い気持ちで、氷河をこき使っていたんだね……」
「どうして言ってくれなかったの。言ってくれたら、僕たちだって、もっともっと容赦なく氷河を働かせたのに!」

「だって……悪役は僕ひとりで十分だよ……」
「9号……」× 14

たとえ何があっても氷の国の氷河を守り抜こうという、9号の強く切ない気持ちに打たれた氷の国の小人たちの瞳もまた、涙に濡れていました。
そんな辛いことを、たったひとりでやり遂げようと考えていた9号の心が、小人たちの小さな胸を熱く悲しくしたのです。

「そんな悲しいこと言わないで。僕たちは15人で1人だよ!」
「そうだよ、僕たちの心は一つだよ!」

「みんな……。わかってくれたんだね、僕の気持ち……」
「9号〜っっっ !! あーん、あーん、あーん !! 」× 14


小人たちがひとかたまりになって、涙々の感動シーンを演じているのを、過労死直前の氷の国の氷河もまた、朦朧とした意識の中で見て聞いていました。
アタマもろくに働かないような状態になっていた氷の国の氷河でしたが、小人たちが、自分のために泣いているのだということだけはわかりました。


だから。
氷の国の氷河は頑張ったのです。

印刷が終わったら、インクの乾くのを待って、製本作業。
小人たちは、氷河の横で、涙を流しながら応援ダンスを踊っていました。
それから、疲れると眠って、起きるとおやつを食べて、また応援ダンスを踊りました。



そんなふうな、氷の国の氷河と小人たちの愛が実らないはずがありません。

涙と感動と愛と愛と愛と愛と愛と愛と愛と愛と愛と愛と愛と愛と愛と愛と愛と愛の『氷の国の宇宙人襲撃裁判顛末記』は、かくして、予定通りの発売日に本屋の店頭に並ぶことになったのです。

もちろん、本はあっと言う間に売り切れて、氷の国の地下印刷所には追加注文が殺到しています。
けれど、自分たちが何のために応援ダンスを踊るのかわかった小人たちと、何のために死ぬ気で働くのかがわかった氷の国の氷河は、更に更に頑張りました。


今も、16人は頑張り続けています。

そして、『氷の国の宇宙人襲撃裁判顛末記』は、恐ろしいほどの勢いで売れ続けています。

だから。
16人はますますますます頑張るのでした。

愛と愛と愛と愛と愛と愛と愛と愛と愛と愛と愛と愛と愛と愛と愛と愛だけに支えられて。

氷の国は、愛と愛と愛と愛と愛と愛と愛と愛と愛と愛と愛と愛と愛と愛と愛と愛でできている、愛と愛と愛と愛と愛と愛と愛と愛と愛と愛と愛と愛と愛と愛と愛と愛に満ちた幸せな国なのです。