季節は秋。

金色に染まった銀杏の葉っぱが、氷の国の大地を金色に染めていきます。
そんな銀杏の木の下で、何ともかぐわしいぎんなんの香りに包まれながら、小人たちの会議の様子を見守っている一人の男がいました。


「……誰か通らないかなぁ」
「今日はだ〜れも来ないねぇ」
「うん…………」

こればっかりは、誰か親切な人が現れてくれないことには、話が先に進みません。
でも、諦めるということを知らない小人たちは、辛抱強く待ち続けました。


待つこと、更に1時間。
1人の親切で不審な人が、やっと、小人たちに声をかけてくれたのです。

「もしもし、そこの可愛い小人さんたち。何かお困りですか?」

その親切で不審な人は、白い手拭いでほっかむりをして顔を隠し、水中メガネに首タオル、おまけに、ゴム手袋・ゴム長靴で完全装備をしていました。
ほっかむりの手拭いの隙間から、ちょっとだけ、金色の髪が覗いています。


「あっ……こんにちは……??」
「あのね、あのね、僕たち、あそこになってる栗が食べたいの」
「でも、木には登れないし」
「イガイガは怖いし」
「食べたくても食べられないの」

「なるほど。そういうことなら、私に任せてください。ちょいとつついて、実を落としてあげましょう」

「わ〜い、ありがとう、???さん!」× 15

親切で不審な人は、まるで始めからこの作業に挑む覚悟だったみたいに、ものすごい重装備でした。
ですから、小人たちには、親切で不審な人が何者なのか、まるでわかりませんでした。
どこかで聞いたことがあるような声ですし、なんだかよく知っている人のような気もしたのですが、せっかく名前を名乗らないで親切をしようとしてくれている人の正体を暴こうとするなんて、品のないことですからね。