夏の風物詩 II




さて、氷の国は次の日も真夏日でした。


「氷河は、今日も、廊下の端っこで行き倒れてたよ」
「暑いもんね〜」
「涼しいとこに飛んでいけたらいいのにね」
「でも、今、どっかに飛んでくと、きっと、僕たち、かき氷やアイスクリームのあるとこに飛んでいっちゃうでしょ。そこは、きっと、やっぱり暑いとこなんだと思うよ」
「そっか。そうだよね……」

残念ながら、小人たちの『暑い氷の国脱出計画』は、実行に移す前に頓挫してしまいました。

けれど、この暑さは、そんなことですんなり我慢できるようになる暑さではありません。

と、その時、突然9号が言い出しました。
「僕、僕とねんごろのリスさんに聞いたことあるんだけど」

「なになに? 涼しい話?」
「うん。あのね、猫さんは涼しい場所を知ってるんだって」
「え?」
「夏に猫さんがいるとこが、その辺りでいちばん涼しいとこなんだって」
「そーいえば、猫さんって、夏場は必ず日陰でお昼寝してるよね」
「同じ日陰でも、猫さんのいるとこがいちばん涼しいとこなんだってさ。本能でわかるんだって」

「へえぇぇぇ」× 14
小人たちは、そんな本能を持っている猫さんを羨ましく思うと共に、大感心。
せめて夏の間だけでも猫さんになれたらどんなにいいだろうと思いました。

けれど、いくら才能にあふれた小人たちでも、猫さんになるのは到底無理な話です。

「じゃあ、猫さんを捜しに行ってみようか?」
「行きたいけど……猫さんを見つける前に、暑くて倒れちゃうよ」
「……うーん。じゃあ、氷河に猫さんを捜しに行ってもらって、涼しいとこがどこか聞いてきてもらおうよ」
「あ、それはいい考えだね」
「氷河、いつまでも行き倒れたままだと、腐っちゃうもんね」
「夏場は油断すると半日でダメになっちゃうよね」
「僕たち、それで、いちごのショートケーキ、ダメにしたことがあったね……」
「15号、辛い思い出は忘れようよ……」


辛く悲しい思い出を振り払い、小人たちは、ぱんついっちょ姿で、ぞろぞろと、廊下の端っこで行き倒れている氷の国の氷河の許に向かいました。

そうしたら、何ということでしょう!


「ああっ、氷河の周りで猫さんたちがお昼寝してる!」
「ほんとだ! もしかして、氷瞬城でいちばん涼しいのって、この廊下の隅なのっ !? 」
「氷河は、きっとそれを知っていたんだ!」

「ずるい……。氷河ったら、どうして、僕たちに教えてくれなかったんだろう……」
廊下の隅で、うだったマグロのような格好で行き倒れている氷の国の氷河を見詰めながら、小人たちは恨みがましく呟きました。

そんな仲間たちを静かにたしなめたのは、9号です。
「氷河を責めちゃいけないよ。きっと、これは氷河の本能なんだ。氷河は自分でも知らないうちに、この廊下の隅に引き寄せられていたんだよ」

「そ…そっかー」
「氷河って、猫さんと同じなんだね」
「猫さんと同じだなんて、すごく立派だね」
「さすがは僕たちの氷河だけあるね!」

一同は、氷の国の氷河の隠された才能と本能に、これまた大感心です。


「じゃ、早速、氷河に、ここに僕たちのお昼寝コーナーを作ってもらおう」
「うん。ここ、涼しくて、いい風が入ってくるね」
「氷河にはどいてもらおうね」
「邪魔だもんね」
「猫さんたちを追い出すのはかわいそうだしね」

「僕たちって、優しいね……」
14号が、自分自身の優しさに感動すると、
「うん、ほんとだね……」
他の14人も同感します。

なにしろ、小人たちの心はいつもひとつですからね。


ともかく、そういうわけで、小人たちは、その特等席に、レースのハンモックで、夏場のお昼寝コーナーを作ってもらいました。


氷の国の氷河は、氷瞬城で2番目に涼しいところを探して、今日もあちこちで行き倒れているそうです。