さて。

氷の国の小人たちが、おやつのためになら、一瞬にして時空を超えられることを、皆さんはご存じですよね?
おやつへの執念──もとい、愛が──小人たちに奇跡の力を与えたのです。

そして、応用力に優れた9号は、いつしか、おやつとお金のために時空を飛び超えることができるようになっていたのでした。


9号は、早速、その奇跡の力を発動し、びゅん★ と、一瞬にしてメリーケンケン国・国家安全保障局の局長室のデスクの上に飛んでいました。

これまでにも幾度か9号の力を借りたことのある局長は、9号が飛んできやすいように、デスクの上に色とりどりのゼリービーンズを撒いていてくれました。
9号は、あまりゼリービーンズは好きではなかったのですが、メリーケンケン国の国民はなぜか、リョナルド・リャーガン大統領の昔からゼリービーンズがとても好きなのです。


「ああ、009ちゃん、大変なんだ! 我が国の国防総省の高等研究計画局施設がテロリストによって占拠されてしまった……!」
NSAの局長は、9号がデスクの上に姿を現すと、『こんにちは』も言わずに用件を切り出しました。

やはり、かなりの大事件が起こったようです。
でも、凄腕エージェントの9号は、もちろん、局長と一緒になって慌てたりはしませんよ。

「国防総省の高等研究計画局施設の占拠? それが僕を呼ぶほどの大事件なの? CIAで十分じゃない。落ち着いてよ、トムおじちゃん」
9号は、局長を落ち着かせようとして、わざと気乗りしないような顔をして、そう言いました。

けれど、局長は、冷静になれるような状態ではないようでした。
彼は、まるで咳き込むようにして、9号に事情を説明し始めました。
とっても深刻な顔をして――。


「これは、大統領と私、高等研究計画局の者たちしか知らないんだが、高等研究計画局でコントロールしているスペースシャトルの内のいくつかにはカクミサイルが搭載されているんだ。もし、犯人が馬鹿なことをしでかして、シャトルが地上に墜落したら、大惨事が起こる。そんなことになったら、私は――世界は――!」
局長は、その先を口にするのも恐ろしいと言わんばかりに絶句し、それから、両手で顔を覆ってしまいました。

「どうしてそんなことをするの。どうせなら、ドロップでも積んでおけば、みんな喜んだのに」

本当に、大きな国の大人たちの考えることは理解できません。
誰も喜ばないことをして得意がっているなんて。
9号は呆れかえってしまいました。

局長が、いたずらを注意された子供みたいに泣きそうな顔になります。
ここで9号に見捨てられたら、彼にはもう為す術がないのです

もちろん、氷の国一お利口な9号は、起こってしまったことを悔やんでも何の解決にもならないことを知っていましたから、それ以上局長をいじめようとはしませんでしたが。

「犯人の目的は何? お金? それとも、捕らえられてるテロリストの釈放?」
「今のところ、全世界の報道機関にこの事実を報道させるようにとだけ要求してきている」
「ふぅん……。秘密裏に事を進めようとしないところを見ると、小物だね。僕が出ていくほどの事件なのかなぁ……」

9号がそうぼやいてみせたのは、今度は、局長をいじめるためではありません。
報酬を吊り上げるためです。
9号は、どんな時にでも、とてもクールなのです。
そして、それは、自分がこの難事件を解決する自信があるから言えるセリフでした。

「009ちゃん、お願い……! みんなを助けると思って」

ほとんど泣き声の局長に、9号はクールに尋ねました。
「報酬は?」

「いつも通り、メリーケンケンドルで80……いや、100万ドル、氷の国の氷の森の樫の木のウロに運んでおく」
「ぽっきー1年分でもいいんだよ。いちごのつぶつぶのがいいな。最近食べてなくて」
「ぽっきーは、日本のぐりゃこの製品だ。日本から大量輸入したら、疑惑を持たれかねない」
「んー、ぽっきーの方が、みんな喜ぶんだけどなー」
「そ……そこを曲げて、お願い……!」

局長は、今にも、おいおい泣き出しそう。
9号は、仕方がないので、局長が言った報酬で手を打つことにしましまた。
局長がかわいそうでしたからね。

9号は、クールに徹しきれない自分自身を、クールに自嘲しました。
これこそ、真のクールというものです。


「うん、じゃあ、ちょっと行ってくるね」
話が決まったら、善は急げ。
言うなり、9号は、ぴゅわん☆ と、国防総省の高等研究計画局を占拠している犯人の許に飛んでいきました。






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