「ちょっと、おじさん!」

高等研究計画局のコントロール室を占拠している犯人は、20歳くらいの栗色の髪をした青年でした。
9号から見たら、立派に『おじさん』です。
こんなことをしでかすなんて信じられないくらい、気弱そうな目をしていました。

局の職員たちはどこか別の部屋に閉じ込められているらしく、コントロール室にはその青年しかいません。
いかにも素人なそのやり方に、9号は内心で溜め息を洩らしました。


「おじさん !? 」
犯人の青年は、突然コンソールパネルの上に出現した9号にびっくり仰天です。
『おじさん』と呼ばれたことにもショックを受けたようでしたけれどね。

でも、やっぱり、犯人をいちばん驚かせたのは9号の姿――だったようでした。
「き……君は……こ…氷の国の小人さんーっっ !? 」
彼は、9号の姿を認めると、コントロール室に大きな声を響かせました。

「僕を知ってるの?」
「そ……そりゃあ、小人さんを知らない奴はいないだろう」

なにしろ、氷の国の小人たちは世界のアイドルです。
9号は、でも、犯人にそう言われると、得意がるどころか渋い顔になりました。

「困るなぁ……。あんまり顔を知られるのはマズいんだけど……」
「サ……サインください!」

犯人は、世界のアイドルとじかに会えたことで、少し興奮気味。
けれど、9号はあくまでクールです。

「サインは後でしたげるよ。ゼリービーンズ食べる? ところで、おじさんがこんなことした訳は何? まさか、僕のサインが欲しいからじゃないんでしょ?」
「それは……」
「それは?」

「それは、有名になりたかったから──」

9号の、クールなのに思わず目を細めてしまう可愛らしさに気が緩んだのか、犯人は、彼がこんな大それたことをするに至った経緯を、ぽつぽつと口にし始めました。

一生懸命勉強したのに、試験日を間違えたせいで試験を受け損ね、大学の留年が決まったこと。
要領の悪さをみんなに馬鹿にされ、彼女にもフられてしまったこと。
いろんなことが重なって、自分が生きていることに意味はあるのかと悩み始め、何か大きなことをしでかして有名になって、周囲をあっと言わせてやりたいと思ったこと――。

話しているうちに、みじめな気持ちになってきたのか、犯人はべそをかき始めてしまったのです。






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