彼にとてもよく似た哀れな男を知っていた9号は、本当は犯人を慰めて励ましてあげたいと思ったのですが、そこをぐっとこらえました。
そんなことをしても、真の解決には至らないことがわかっていたからです。

ですから9号は、犯人に同情しかけている自分を抑えて、クールに言い放ちました。
「考え方が、つくづく小物だね」

言下にそう言われた犯人が、負け惜しみのように叫びます。
「お……俺は、ほんとは大物なんだ! デカいことができるんだ!」

けれど、9号はあくまでクール。
「大物は有名になりたいなんて考えない。なるべく目立たないようにひっそりと動くものさ。その方が活動しやすいからね」

「こ……小人さんみたいな有名人に、俺の気持ちがわかるもんか……!」

実際に超大物の9号にそう言われてしまっては、小物としてはいじけるしかありません。
先ほどの勢いはどこへやら、犯人はめそめそしながら、床にへたり込んでしまいました。

9号が、そんな犯人をじっと見詰めます。
しばらくしてから、9号はゆっくり口を開きました。
「つまり、おじさんが欲しいのは、自分の存在意義証明。自分が生きている意味を実感することなんだね」

犯人が、こくりと頷きます。
9号は、素直になった犯人に、小さく微笑しましまた。

「じゃあ、いい方法を教えてあげる」
「え?」
「僕が、おじさんを無罪にしてあげる。僕の部下になって働くようにすればいいよ」

9号が口にした思いがけない提案に、犯人は、その気弱そうな茶色の瞳を大きく見開きました。

9号が、その先を続けます。
「僕は、世界中の困ってる人を助けてあげる仕事をしてるんだ。今回みたいな地球の存亡に関わる事件の時もあるし、小さな商店街で困ってるおじさんに店舗経営のいろはを伝授することもある。幼稚園で仲間はずれにされてる子を助けてあげることもあるよ。僕は小さいし、時空を自在に行き来できるからね。どこにだって潜り込めるし、逃げるのも簡単だし」

「ひ……必殺仕事人ですか?」
犯人は、どうやら、日本の古い時代劇のファンのようでした。

「ディープ・カバー・エージェントって言ってよ。秘匿工作員。そっちの方がカッコいいでしょ?」
こういう仕事はカッコが大事。
だからこそ、9号は、熱い思いを胸に秘め、クールを装っているのです。

「僕の部下にならない? することは簡単だよ。困ってる人を見かけたら、僕のシークレット・ナンバーに連絡を入れるだけ」
「そ……それで有名になれるんですか?」

「有名になってどうするの。有名になったって、何にもならないよ。外を歩くとき、大変なだけ」
9号は、犯人の言葉を鼻で笑ってみせました。






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