ある日、氷の国の氷河は、氷河登りにいそしんでいる小人たちに、駄目もとで言ってみました。

「なあ、おまえたち」
「なぁに?」× 15

「が…合体ごっこをしてみないか?」

やましい心があるので、氷の国の氷河はちょっとどもり気味。

「合体ごっこ?」
「お……おまえたちと俺が合体して一つになるんだ」

氷の国の氷河の切なる思いが、小人たちに通じたのでしょうか。
小人たちは、案外に乗り気でした。

「面白そうだね!」
「うん、面白そうだね!」

「だろう !?  面白そうだろう? 気持ち良くなると思うぞ、きっと」

氷の国の氷河のくせして、そんな自信がどこから湧いてくるんだ! ――なんて考えてはいけません。
氷の国の氷河は、氷の国の氷河なりに必死だったのです。


そんな氷の国の氷河の目の前で、小人たちは突然ベッドの上で円陣を組んで、なにやら相談を始めました。

「どうしたんだ、おまえたち?」

少し戸惑いながら氷の国の氷河が尋ねると、

「よーし、決まった」
「おーっっ !! 」 × 15

威勢のよい掛け声と共に、小人たちは、わらわらわらわらと5人ずつ3組に分かれて、氷の国の氷河によじ登り始めました。
5人は氷河の真正面から、5人は右腕から、残りの5人は左腕から。
腕から上る2組はシーツの端っこを握り締めています。


真正面から氷の国の氷河の頭の上に登った5人はそこで手を繋ぎ、輪になりました。
腕から登った2組は、氷河の肩のところにシーツの端を固定しています。

「な…なんなんだ、おまえたち?」

氷の国の氷河に尋ねられると、小人たちは楽しそうに嬉しそうに得意そうに言いました。

「合体ごっこだよ」
「僕たち、氷河王子様の冠なの」
「僕たち、氷河王子様のマントなの」
「氷河は僕たちの王子様だもん」

「ねーっ !! 」× 15

「おまえたち……」

ちょっと――どころか、かなり――、それは、氷の国の氷河が期待していた合体ごっことは様相を異にした合体ごっこでした。
けれど、愛する瞬(になるはずの小人たち)に王子様と呼ばれて、氷の国の氷河はとても感動してしまったのです。

「おまえたち、俺のことを王子様だと……」

感動のあまり、氷の国の氷河は、声だけでなく全身をぶるぶる震わせました。

途端に、小人たちの小さな悲鳴。

「わっ、動かないでっ!」
「動いちゃ駄目だよ、氷河!」
「氷河が動いたら、合体が崩れちゃうー!」

「え? あ……ああ」

小人たちにそう言われて、氷の国の氷河は急いで全身を緊張させました。

せっかく小人たちが“王子様”のために合体してくれたのです。
この合体を崩してしまうなんて、氷の国の氷河には死んでもできることではありませんでした。
それは、小人たちも同じことです。


ですから、氷の国の氷河と小人たちは、合体した状態を維持するために、16人が16人とも手足を石のように強張らせたのです。


「…………」(←1号)
「…………」(←2号)
「…………」(←3号)
「…………」(←4号)
「…………」(←5号)
「…………」(←6号)
「…………」(←7号)
「…………」(←8号)
「…………」(←9号)
「…………」(←10号)
「…………」(←11号)
「…………」(←12号)
「…………」(←13号)
「…………」(←14号)
「…………」(←15号)

「………………………………」(←氷の国の氷河)


冠役の5人は微妙なバランスを保つために、精一杯腕をぴんと伸ばしていました。
肩で王子様のマントを抑えている5×2人は、重いシーツのマントを抑えるのに必死です。
もちろん、氷の国の氷河はぴくりとも動けません。






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