「わーい、メリークリスマスー !! 」 昨夜、氷の国の氷河が徹夜で飾りつけたクリスマスツリーの下で、小人たちはごきげんです。 ツリーは綺麗でしたし、年末の大掃除の後、氷の国の氷河が夜なべを続けて作ってくれた今年のプレゼントは、15人お揃いのサンタさんルック。 白いふさのついた赤いお帽子とコートはそれはそれは可愛らしいもので、小人たちはお出掛けでもないのに、すぐに着込んでしまったくらいです。 おまけに、ツリーの横には、氷の国の氷河が買ってきてくれた、おいしそうなクリスマスケーキ。 小人たちがうきうきするのも当然のことでした。 小人たちは、早速、テーブルの上で、『ハッピー・クリスマス・モーニング』のダンスを踊りだし、氷の国の氷河は、小人たちが喜びのダンスを踊り始めたのを確認すると、ケーキとツリーの置いてあるテーブルの足許に、ばったりと倒れてしまいました。 なにしろ、氷の国の氷河は、昨年末、数日に渡って答える羽目になったプルーストの質問状のせいで 大検の勉強や、ノーベルンルン賞獲得のための過酷な刺繍仕事で、その知力体力を使い果たしていました。 その上、年末にはクリスマスのケーキ代を購入するための工事現場への出稼ぎ、大晦日の大掃除、お正月の準備と後始末、そして、休む間もなくクリスマス。 氷の国の氷河の、もともと持ち合わせの少ない知力は当然として、幾度死にかけても決して死なないというので有名な自慢の体力も、そろそろ限界にきていたのです。 というより、氷の国の氷河の体力は、とっくに限界を超えていました。 いくらツリーとケーキに浮かれていたって、それに気付かない小人たちではありません。 『ハッピー・クリスマス・モーニング』のダンスを踊り終えた小人たちは、テーブルの下の床に、ボロ雑巾のようになって倒れ伏している氷の国の氷河を、心配そうに見おろしました。 「氷河、疲れ切ってるみたい」 「覇気がないね」 「生気も感じられないよ」 「運気もないみたい」 氷の国の氷河に運気がないのはいつものことでしたが、それでも小人たちは、せっかくのクリスマスだというのに、床でぴくりとも動かない氷の国の氷河の様子に、とても心を傷めました。 「こんなんじゃ、プルーストさんの質問状の33問目と34問目の心配がほんとになっちゃうよ」 「33問目と34問目の心配って、僕たちの氷河が、神様の手違いで地獄に落とされちゃうってこと?」 「うん……」 9号の言葉に、小人たちは一様に暗い顔になりました。 小人たちが天国に行けることは、最初からわかっていましたからね。 氷の国の氷河が地獄に落とされたりしたら、小人たちは氷の国の氷河は離れ離れになってしまうことになります。 「そんな……。だって、僕たちの氷河は……。だって、この世界に、僕たちの氷河くらい、優しくて純粋で汚れを知らない清らかな心の持ち主はいないのに……」 「うん、本当なら、誰よりも天国に行ける人間のはずなんだけど……」 「氷河だからねぇ……」 「うん……氷河だからねぇ……」 小人たちは顔を見合わせて、一斉に、小さな溜め息をつきました。 でも、小人たちは、いつも前向き。 早速9号が、暗澹たる面持ちの仲間たちに檄を飛ばします。 「みんなっ! ここで沈んでる場合じゃないよ!」 「9号……」 「よし、その時のために練習しよう!」 「練習?」 「うん。ちょうどツリーもあるし、ツリーのてっぺんを天国に見立てて、地獄にいる氷河を引きあげるための練習だ!」 それまでテーブルの端に並んでしゃがみこみ、床の上の氷の国の氷河を見詰めていた小人たちは、9号の提案を聞いて、ぱっと明るい顔になりました。 もともと小人たちは、不運や困難の前で、為す術もなくぼんやりしていることなんてできない性分でしたからね。 「よーし、氷河を助けるための練習をしよう!」 「おおーっっ !! 」× 15 小人たちは、そういうわけで、掛け声も勇ましく立ちあがると、自分たちの背丈の5倍もありそうなツリーの側にわらわらと駆け寄って、よいしょよいしょとよじ登り始めたのです。 |