小人さんライブ・ファイナルは、小人たちの軽やかなオープニングダンスで幕を開けました。

「小人さーん!」
「きゃーっ、こっち向いて〜!」

黄色やピンクの歓声・嬌声が飛び交う中でのダンスが終わると、舞台上、一歩前に出て、9号が口上を述べ始めました。

「皆さん、今日は、僕たちのライブに来てくれてありがとう! もう、噂でご存じだと思うけど、僕たちがこのファイナル・ライブを開催したのは、僕たちが団子泥棒の決定的な身体的特徴を思い出したからです」

予想していたとはいえ、9号の重大発表に、それまで大騒ぎだった会場はしーん☆ と静まりかえりました。

「それは、その特徴がわかれば、犯人は決まったも同然の、世にも稀なる特徴です」


「僕にはわかっています。犯人はここに来ている。来ていないはずがない。だって、自分が市中引き回しの上、磔獄門になるかならないかの重要なイベントなんですから」

しわぶきひとつ聞こえないライブ会場、

「いいえ、本当のことを言いましょう。僕には、犯人が見えています。今、どこにいるのかもわかっています」

ぐるりと客席を見渡して、

「犯人は、」

9号は、

「おまえだーっっっ !!!!!! 」

叫びました!

そして、9号が天を指差して叫んだ、まさにその瞬間!

「うわぁ〜〜っっ、俺は死にたくない〜っっ !!!! 」
と叫んで、ライブ会場から逃げ出そうとした男が一人いたのです!


「氷河っ! その人が犯人だよ、捕まえてっ!」
「ええええええっ !? 」
「捕まえてっ! 僕たちのバラ色の未来がかかってるんだよっ !! 」
「あわあわあわわわ」
「氷河―っっ !! 」


氷河は、チケットもぎりに忙しくて、その時、十手もお縄も持っていませんでした。

しかも、9号の超原始的なハッタリに引っかかってしまった犯人は、どうやらタダでこの会場に潜り込んでいたものらしく、氷河のいる場所とは反対側の土間席の隅っこの方であたあたしています。

岡っ引き氷河は何も武器を持っていません。
かといって、走って追いかけていたのでは、犯人を取り逃がしてしまうでしょう。

その時、岡っ引き氷河が持っていたのは、4文銭1枚だけでした。
岡っ引き氷河は、一瞬ためらいました。
お金は大事にしなければならないと、いつも9号に厳しく言われていたからです。

「氷河―っっ !! 僕たちの夢を叶えてーっっ !! 」× 15

でも、岡っ引き氷河には、お金よりも何よりも、小人たちの切なる願いの方が大事だったのです。


狙いを定めた岡っ引き氷河は、極悪非道の団子泥棒めがけ、手にしていた4文銭を、びしぃっ★ と、渾身の力を込めて投げつけました。


これまで何年もの間、小人たちの恐がる虫たちを、おはじきを投げては退治していた岡っ引き氷河です。
コントロールも球威も、かの沢村栄治の最盛時をはるかにしのいでいました。

岡っ引き氷河の投じた4文銭は、見事、逃亡を図った犯人の脳天を直撃、団子泥棒は白目を向いて、その場にひっくり返ることになったのです。


「おおおおおおーっっっ !!!! 」

小人さんライブだけでも感動ものの舞台だというのに、思いがけない捕り物劇まで見ることになった江戸っ子たちは大いにどよめき、やがて、そのどよめきは、やんややんやの大喝采に変わっていきました。


「やったー !!!! 」× 15

「50両は氷河のものだ!」
「氷河がやったー、僕たちの氷河がやったよーっっ !! 」

もちろん、小人たちの喜びは、もう言葉では言い表すこともできないほどでした。

そして、大歓声の中、少々興奮気味の岡っ引き氷河と小人たちは、もっと興奮した観客の祝辞を受けながら、倒れ伏した犯人の許に歩み寄っていったのです。







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