「うちの店にも小人さんたちがいたら潰れたりはしなかったんだろうって、羨んではいたんです。でも……」


小人さんライブ・ファイナル3幕目。
それは、馬苦度屋の元主人の自白の言葉で始まりました。


「でも、俺があの日、あの店に行ったのは、うちの子供たちが小人さんたちのファンで、でも、金がないから、小人さんの絵草紙や錦絵なんかは買ってやれないし、だから、俺が絵を描いて子供たちに見せてやろうと思って……俺は、あの日、小人さんたちをスケッチしに行っただけだったんです!」

涙ながらの馬苦度屋さんの訴えに、9号がぽつりと呟きます。
「売り家と唐様で書く三代目――だね」

「なーに、それ?」

「1代目が苦労して起こした立派な店を、2代目が大切に引き継いで、3代目が潰しちゃったって川柳さ。苦労を知らずにいい家で育てられて、いい教育を受けさせてもらってるから、3代目は商才はなくても芸事はできて、絵だの書だのはすごく上手いの」

どうやら、馬苦度屋の元主人は、その川柳を地でいく人のようでした。

「でも、小人さんたちの姿を捜してごそごそしてたら、テーブルの上に団子が置かれてるのに気付いて……それがあんまりうまそうで、家で腹をすかせている子供たちに食わせてやりたいって思って――。小人さんたちはいくらでも食べれるもんだと思ってたんです! 小人さんたちを悲しませるつもりはなかった。俺は……俺は……あーいあいあい;;」

成功した父祖の許で教育に金はかけてもらったけれど、苦労知らずの世間知らずで、お人好しな上に、商才はからっきし。
それでも、馬苦度屋の元主人は悪い人ではなさそうでした。
苦労を知らないのは、その人のせいではありませんしね。


「そーいや、馬苦度屋さんは子だくさんだったなぁ。育ち盛りの子供が5、6人はいたような……」
「その子たちが、みんなおなかをすかせてるのね……」
涙で顔をべちょべちょにしている馬苦度屋の元主人の姿を眺め、クマさんとおシゲちゃんは同情に耐えない様子でしんみり口調です。

「おーい、おいおいおい;;」
それを聞いて、馬苦度屋の元主人には、ますます泣きが入ります。

ちなみに、馬苦度屋の元主人は、おいおいと誰かを呼んでいるのではありませんよ。
自分の非を心から悔いて、後悔の涙を流しているんです。



「…………」

それまで黙って話を聞いていた9号は、地べたにへたり込んでいる馬苦度屋の元主人に、静かな声で尋ねました。
「お団子、おいしかったって?」

「へ……へえ、そりゃもう……。馬苦度屋の飯婆画亜の100倍もおいしいって、にくたらしいこと言いやがって、ガキどもは、串まで舐めておりやした。食べ終わってからも、ずっとその串を大事に取ってあって……あーいあいあい、おまえたち、馬鹿な父ちゃんを許しておくれ〜っっ !!!! 」


馬苦度屋の元主人の号泣は、ますますますます大きくなっていきます。
団子1串が原因で、育ち盛りの子供たちを何人も残し磔獄門なんですから、それも無理からぬことでしょう。


「9号……。このおじさん、かわいそうだよ……」
「これで、このおじさんが磔獄門になったら、残された子供たちはどうなるの」
「9号〜、見逃してあげようよ〜」

仲間たちの嘆願に、けれど、9号は険しい顔を崩しません。

ここで馬苦度屋の元主人を見逃すということは、懸賞金50両が手に入らないということです。
バラ色の人生と、雨漏りのしない長屋と、所帯を持つ夢を諦めるということなのです。







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