パニック状態の銭形氷河が訳のわからないうわごとを呟いていた時、小人たちは甘くてすいーとで幸せで暗い場所に全員集合していました。 「ぎゅうぎゅうだね」 「結局、みんな来ちゃったからね」 「だって、僕たちはひとりで15人、15人でひとりだからね」 「そうだね、幸せはみんなで分かち合わなくちゃ」 「ここはとっても甘くて気持ちいい〜」 「もう少し、この幸せに浸っていようよ」 「賛成ー!」 「異議なーし!」 「では満場一致で、もう少しここにとどまることに決定ー」 「ぱちぱちぱちぱち〜」× 15 小人たちは全員、甘くてすいーとで幸せで暗い砂糖壺の中で、甘い甘い幸福に浸っていました。 実は、1号は、転がるどんぐり飴を追いかけて、湯屋の納屋の奥に置いてあった砂糖壺の中に落っこちていたのです。 壺の中身はお砂糖でしたから、落っこちた1号は怪我もせずに済んだのですが、壺というものは内側からよじのぼれるような形はしていませんし、出口は1号の遥か頭上。 ですから、1号は、甘くてすいーとで幸せで暗い砂糖壺の中から、どうにも脱出することができずにいたのでした。 そんな時に、水を飲みにお勝手にやって来た2号が、なにやら隣りの納屋の方から甘い幸せの気配がするのに気がついて、砂糖壺にハマっていた1号を見つけることができたのですが。 2号はお砂糖の甘い誘惑に惑わされ、ついふらふらふら〜っと、自分まで砂糖壺にハマってしまったのです。 「だって、滅多にお目にかかれない極上の白砂糖なんだもん」 「このさらさらの手触り、たまらないよね〜」 「うんうん、気持ちいいよね〜」 ──と、そんなふうにして順番に、3号も4号も5号も6号も7号も8号も、あの9号さえも、続く、10号、11号、12号、13号、14号、15号も、小人たちはみんなみんな、甘い誘いにつられて砂糖壺にハマってしまったのでした。 |
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ただ、小人たち全員が砂糖壺にハマってしまったわけですから、壺から脱出する手段はあるにはあったのです。 小人たちが全員で肩車をすれば、一番上の小人の手はなんとか出口に届きますから、脱出なった小人がその足で救援を呼びにいけばいいのです。 それはわかっていました。 わかってはいたのですが──。 この甘い幸せにもっと浸っていたい小人たちは、あえて『砂糖壺脱出作戦』の開始を引き延ばしにしていたのです。 「ここを出るのはいつでもできるもんね」 「ふあぁ……僕、なんだか眠くなってきちゃった……」 「6号なんか、もうぐっすりだよ」 「ん〜、じゃあ僕もちょっと寝る……おやすみなさ〜い」 「おやすみ〜」 甘い満足感に満たされて、安らかな眠りに落ちてゆく小人たち。 けれど、運命の荒波はそんな小人たちをそっとしておいてはくれなかったのでした。 |